事件ファイル 1.「仮想幻夜」

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 01  からりと乾いた風が、枝だけが空を突き刺す銀杏の根に留まっていた枯葉を揺らした。ビル群を遠くに見下ろす峠の幹線道路から脇に逸れた先、人気のない寂れた遊具が転がるだけの公園に赤城東弥がいた。  入り口に停めた愛車のSUVから、控えめな音量ながら勝手に音楽を流してベンチに掛けているが、その目は景色ではなく手元のタブレットにある。  再び風に枯れ葉が音をたてた。表示された通知に、赤城はスマホから通話をかけた。 「課長。さっきの確定です、うちの事件になりました」  今から戻ります、と告げて通話を切り、思いきり背伸びをした。 「また始まる、っと」  赤城の車が勢いよく走り抜ける峠の幹線道路は、錆びついたラブホテルの看板を境に木々が左右から覆う私有道路へと切り替わる。まだ夜の霜が残る風を抜けてエンジン音が止まったのは、鉄筋コンクリートと鉄扉をくぐった先の赤茶色の煉瓦が美しい三階建ての建物。駐車スペースはすでに3台の車らによって埋まっているが、あまり気にする様子もなく赤城は玄関前に停めて玄関へと向かう。  重厚な扉は動かすだけで圧を感じさせる。躊躇なく中へと入る赤城の足取りは軽く絨毯じきの階段をかけ上がると、屋敷の中央にあたる扉へと向かう。セキュリティが静かに作動し、部屋に入ると目の前に赤いものがあったせいで思わずぶつかりそうになった。
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