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イカリン
「ものすごい売れ行きだそうですね」
その薬剤の入った瓶を手に、助手の後川内は、私、綾小路弥生の目の前で振って見せた。白い錠剤が、瓶の中でジャラジャラっと音をたてる。
ーイカリンー
この薬を開発したきっかけは、私自身の体験からだった。
私の夫である孝義とは職場結婚だった。ここ、『日本中央薬剤開発研究所』で、共に新薬の開発を進める同僚だ。
結婚当初は大大大が付くほどに優しい人だったけど、その生活は一年と続かなかった。
思うように新薬を開発できない夫とは逆に、私の新薬は次々に承認され、そのほとんどが日本を飛び越え、世界にまで浸透していった。
夫の自尊心が徐々に崩壊していき、それがやがて家庭内暴力にまで発展するようになる。
夫の怒りに任せての暴力に耐える日々が続く中、私はある発見をした。
それは『波』の力だった。
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