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「お前、そんなにモテるんならこんなオッサンの相手なんかしてないで早く結婚すりゃいいじゃん」
圭介は、なんだかくさくさして来て言う。
「結婚ねぇ…」
加瀬はサーモンのマリネを取り皿に移す。
「良いもんですかね?結婚て」
「そりゃあいいよ」
圭介は、陽子の写真を見る。
「けど、陽子はどうだったのかなぁ?幸せだったのかな…」
圭介は、過去に想いを馳せた。
「奥さん、急に亡くなったの?」
「ああ。異変に気づいた時は、もう乳癌の末期でさ。若いと進行が早いんだよね。あっという間に」
圭介は下を向いた。加瀬に泣き顔は見られたくない。
「そうだったんだ…」
加瀬は、圭介のほうに手を伸ばしてきた。
頭を優しく撫でられる。
「辛かったね」
そう言われて、ポロ…と涙が零れた。
一人で泣くことはあっても、誰かの前で泣くことはなかった。
「圭介さん―」
加瀬は立ち上がって、圭介の隣に座りに来た。
肩をぽんと叩かれる。
「今日は呑もう。愚痴でも何でも吐き出しちゃえばいいよ。今まで一人で頑張って来たんだから」
加瀬の優しい声に包まれて、ついまた飲みすぎてしまった…
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