悪魔の子 1

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悪魔の子 1

 その少女は、悪魔の子だった。  その少女は、初めから悪魔の子であったとも言えるし、そうでなかったとも言えた。  少女の産まれた家は、祖父母が一代で財を築いた商家で、そして少女が産まれた頃にはもう不渡りと借金が膨らみ、とうに金策は回らなくなっていた。  それでも、幼い頃は何不自由なく物が与えられ続けた。 「まるでお人形さんのように可愛らしい」 「誰に似たのかしら」 「××の若い頃によく似ている」 「流石はうちの子」  白いレースに、たっぷりと生地を使ったスカート。艶やかな反物を惜しみなく使った着物に、大輪が咲いたように豪華な刺繍を施した帯。  家の者は、少女を着飾っては口々にそう褒めた。 「どうしてこんな問題も分からないのか」 「うちの子なのに恥ずかしい」 「出来るまで食事は与えなくて良い」  その反面、まだ7つにも満たない少女に、うんと上の勉強をさせてはそう厳しく躾けた。  人形のように美しく愛らしい顔だと言われても、綺麗な服を着せられても、少女は何も嬉しくはなかった。 「どうして箸も正しく持てないんだ」 「母親は何を教えている」 「あの人は家柄が良くないから」 「頭は母親に似たなんて可哀想に」  少女の母は、田舎から嫁いで来た若い娘だった。商家の礼儀作法など知らず、特に教養があるわけでもなく、ただ明るく元気な人だった。商家の息子が田舎に行った際気に入り、そのまま連れられて来たなんとも運のない人だった。  作法がなっていないと、同じ家で暮らす父の姉は大袈裟に嘆く。自分の娘は同じくらいの歳でこれくらいは出来たと、祖母は口癖のように言う。  それでも少女にとってこれは普通のことで、嬉しくもないが特に悲しくもなかった。  この時、少女はまだ自分が悪魔の子であることを知らなかった。
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