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16歳で希美を産んだ母と同じ道を辿ってしまうのかと不安になった希美は、すぐさま賢祐に泣きついた。
慌てて飛んできた賢祐に連れられて産婦人科に駆け込んだが、検査の結果は――想像妊娠だった。
良かったと安心する希美の隣で、賢祐は医者に、
「経口避妊薬を処方して欲しい」
と言い出した。
「えっ!?」
驚く希美に、
「もうのんちゃんを不安にさせたくないから。薬代は俺が負担するから、ちゃんと飲み続けてね」
賢祐は笑顔でそんなことを言った。
今思うと、希美の体のためと言うよりは、賢祐が避妊具なしで楽しみたかっただけだったのだろう。
希美の一人暮らしに肯定的だったのも、多分――実家暮らしで希美を家に呼べない賢祐が、ホテル代を浮かせるため。
それでも、そういう知識も判断力も乏しかった希美は、それが賢祐の優しさなのだと思っていた。
それがおかしいことなのだと教えてくれる大人は、希美の周りにはいなかったから。
そこまでを聞いた頼斗は、
「……今は、それがおかしいことだって分かってるんだよな?」
希美に恐る恐る訊ねた。
「分かってるよ。でも……」
希美は俯く。
昨年の冬、やっとおかしいと気付いた希美は、賢祐にそのことを問いただしたのだが――
その瞬間から、賢祐の態度が豹変した。
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