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そんな思いで地下鉄の駅へ向かっていると、背後から急ブレーキの音が聞こえた。
何事かと琴羽が振り返ると同時に車同士がぶつかり、激しい衝撃音が辺りに響き渡る。
事故を起こした一台は信号機をなぎ倒して停止したが、もう一台は滑るように琴羽の元へ向かってくる。
間一髪、それを避けた琴羽だったが、その車は琴羽のそばにある看板のポールにぶつかったあと、店舗の壁に激突して動きを止めた。
心臓の鼓動が今にも破裂しそうな勢いで事故を起こした車を見つめると、琴羽の背すじは恐怖で凍り付いていた。
あの時、すぐに避けなければ、この事故に巻き込まれるところだった。
悪影響とは……このことだったのか?
しかし、いくら危なかったとはいえ、こうして無事でいられたことに、琴羽はホッと胸を撫でおろしていた。
こんなところで事故に巻き込まれるわけにはいかない。
平林から、二人での食事を誘われたばかりなのだから……。
と、その時、コツンと足元に小さな何かが落ちてきた。
それに視線を落とすと、ネジのように見える。
どうして、こんなところに?
そう思いながら上を見上げると、金属の軋む音とともに、頭上にある大きな看板が琴羽を目掛けて落ちてきた。
投げ出された鞄から、一枚の紙きれが風に飛ばされると、歩道に広がる血だまりの上に舞い降りたそれは、赤く染まっていった。
(完)
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