新たな道

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「ゆーちゃん?」 「・・・うん」 「どこか、調子が悪い?」 記憶の中のたけちゃんも 目の前の尊君も いつも私を気遣ってくれる王子様 前を向いて歩み始めた尊君のことを “信じてみて”と 小さかったあの頃の私が 二の足を踏んでいる今の私を責める 「・・・悪い、かも」 「え、どうしよう。ちょっと待って お父さんを呼んでくるから座って待ってて・・・っ」 慌て始めた尊君の隣に移動して 手を取った 「ゆー、ちゃん?」 「たけちゃん」 「ん?え?泣くほど辛いの?」 「ううん、違う」 「え?ゆーちゃん、待って 僕、お父さん呼んで・・・っ」 更に慌てる尊君のネクタイを引っ張って 近付いたその頬に口付けた 「・・・・・・え」 その頬に手を当てて呆然とする尊君 「あ、え、と、えっと、ん? ゆーちゃんが、え?・・・ん?」 「落ち着いて、尊君」 「うん。僕は落ち着いて、る ん・・・え、と・・・ゔぅ」 尊君はパチパチと瞬きを二回して視線を合わせた瞬間クシャリと顔を歪ませた 「ゆ、ぅちゃん」 そのまま膝から崩れ落ちた尊君はハンカチを顔に当てて子供みたいに泣きだした ずっと握ったままの片方の手はそのまま尊君が落ち着くのを待つ そうやってただ時間が過ぎるのを待つだけでも尊君と居ると心地が良い 「ゆーちゃん、夢かな?」 真っ赤な目をした尊君の頬を摘んでみる 「痛っ」 「あ、ごめんね」 「ううん。夢じゃないって分かって嬉しい」 「そっか」 「うん」 なんでもないやり取りが 今はとても大切で この穏やかな時間を共に過ごしたい コンコン ノックと共に開いた扉から 「「わっ」」 父親二人が入って来て号泣の尊君と少し泣いてしまった私を見て盛大に驚いていた 「次、の休み、に会っ、てくれる?」 目も鼻も真っ赤な王子様崩れの尊君は 時折しゃくり上げながら声を絞り出した 「待ってるね」 父親二人の前で約束を交わして今日の「偽クライアントアポ」は終了した
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