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「君は白に似ている」
「白? 何? 犬か猫の名前みたい」
「猫だよ、僕の場合」
「猫、嫌いじゃなかったの?」
「嫌いなふり、してただけ」
「ふり?」
「本当は」
僕はごくりと喉を鳴らした。
「大好きだ」
病院の待合室の長いすで、僕は白い浴衣を着てはんてんをきつくまとっている彼女と話していた。
「白は僕が小学生の頃、うちの庭に迷い込んできた子猫だったんだ」
「おうちの猫にしたのね」
「うん、姉ちゃんが味方になってくれたから、両親も許してくれた」
「どういうこと?」
「姉ちゃんは、頭がよくて明るくて、近所でも評判だったから」
「いいお姉さんなのね」
「僕とは正反対だったんだ」
彼女は口をつぐむ。
「白は親やきょうだいとはぐれたのかな。泥がついてて、うす汚れて、みいみい鳴いてたんだ」
「ケンジくんが見つけたのね」
「弱々しい声で、すぐには気がつかなかったけど、何か芝のなかで動いてて、声が聞こえて」
「それで抱き上げて」
「うん、あんなに柔らかい生き物を抱くのは初めてで、こわかった」
「優しい子だったのね」
「ふつうだよ」
彼女はふと遠い目をした。
僕が彼女と知り合いになったのは、中耳炎で入院するはめになったためだった。
健康そのものだった自分が思いがけず緊急入院で、僕はストレスが溜まっていた。
手術が終わると暇を持て余すようになり、パジャマ代わりのトレーニングウェアで、よく総合病院の待合室に出かけていった。
自販機で缶コーヒーを買って飲むのが楽しみになっていた。
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