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子供達に心配かけさせないように、常に態度や表情には気をつけてきてたんだけどな。
隠しきれてなかったんだね。
気をつけなきゃ…。
部屋を出て身支度を整えると玄関に向かった。
玄関扉の向こうには折り畳み自転車に空気を入れるとくちゃんの姿。
「じゃあ、マリとマヤをお願いします。やっちゃんが帰ってきたら迎えに来ます。何時になるかわからないけど」
「気をつけて行くのよ。できるだけ大通りを走って、無事に着いたら簡単にメールだけ入れといて。寝てるから」
心配するわりに私が激走してる最中に寝ちゃうんだね。
「はーい。じゃあお邪魔しました」
手を振り玄関扉を閉めると折り畳み自転車を押すとくちゃんとエレベーターに向かう。
「とくちゃん、ここまででいいよ。ありがと」
エレベーター前で立ち止まり、下のボタンを押してからそう言うと、とくちゃんから自転車を受け取った。
目の前で開いた扉内に自転車を押しながら入る私にとくちゃんが話しかけてくる。
「モモ」
「…はい」
自転車の向きを変えながら、閉まる扉を押さえてくれているとくちゃんに視線を向けた。
上から見下ろすようにじっと見つめてくるとくちゃんに、緊張感から息を止める。
色気が年齢を重ねて増し増しになってるなーとぼんやり考えている私に言い放たれた言葉。
「…家に着いたらシャワー浴びて、歯も磨きなよ」
「…は?」
え、それ今言うセリフなの?と意表をつかれた私をそのままに、片手をあげたとくちゃんにより閉まった扉と下降するエレベーター。
何か特別なことを言いそうな目をしていたけど、気のせいだったのかな…。
外に出て自転車に跨りながら、首を傾げた私は気を取り直してペダルを力強く踏み込むと夜の闇に向かって走り出す。
見上げた暗い空には、薄曇りが広がるだけで
月は見当たらない。
無事に辿り着けるかな…と少しの不安を胸に
無心でペダルを漕ぎ続けた。
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