魔法使いになりそこなったお話

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つい昨日の夜までその存在すら知らなくて、あの日のことも全く覚えていなくて(あんなに激しく一緒にいたのに結局思い出さなかった)、一度は突き放したというのに、僕の中のこの自分でもままならない彼への思いは何なのだろう。 幸せすぎておかしくなりそう。 玲央を生んだ時も、僕はとても幸せだった。 玲央を生んで初めてそのお顔が見えた時、自分の人生の中で一番うれしくて幸せだと思った。 だけど吉沢くんの存在も、やっぱり僕をこれ以上ないくらいの幸福感で満たしてくれる。 でも玲央の時とは少し違う幸福感だ。 そうか、吉沢くんは守るだけの存在じゃないからか。 玲央は僕のかけがえのない宝物。絶対に守って幸せにしたい。だけど吉沢くんは守りたいけど、きっと守ってももらえる。そして、一緒に幸せになる存在なんだ。 これからずっと一緒にいてくれる存在。 きっとこれが人生のパートナーということなのだろう。 そうは言っても、じゃあすぐ一緒になりましょうとはならない。 問題は山積みだ。 まずは玲央に紹介して、それから美香ちゃんに全てを話して、吉沢くんのご両親にもお会いしなきゃいけないし、うちの両親だって・・・。 吉沢くんのご両親は反対するかもしれない・・・。 あんなにかっこよくて優秀なアルファの息子は、きっとご両親にとっては自慢の息子だろう。その相手が10歳も年上の冴えないオメガじゃ、納得いかないかもしれない。 でも、もう彼を諦めることが出来ない自分がいる。 吉沢くんが僕を求めてくれる限り、僕も彼の傍にいたい。だから時間がかかってもいいから僕のことを認めてもらおう。そんなことを密かに決心して、とりあえずいまは疲れきった身体を休ますことにした。 疲れている時は考えがネガティブになりがちだ。せっかく会社も休んだことだし、今日はゆっくり休んで帰ってくる玲央のために体力を回復させておこう。 発情期でもないのにお泊まりさせちゃったし。まあ、発情期のような感じではあったけど・・・。 今日は玲央の好きなハンバーグにしよう。吉沢くんも好きかな? そんなことを思いながら僕は吉沢くんの香りがまだ濃く残る布団の中にもぐって目を閉じた。 もしもあの夜、吉沢くんが道に迷わなかったら、僕は今頃魔法使いになっていただろうか?魔法が使えたらいろいろ楽しそうだけど、きっといま僕が感じている幸せには敵わないと思う。 魔法使いにならなくてよかった。 僕は魔法使いになるよりも、親になり大切な人のパートナーになれる幸せを噛み締めながら、夢の世界へと落ちていった。 了
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