魔法使いになりそこなったお話

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僕はお酒が好き。 決して強くはないけれど、飲み屋さんのあの独特の雰囲気と、気の置けない仲間とぶっちゃけトークをするのが大好きだ。 そして今日も楽しくお酒をいただいた。 「本当に大丈夫?」 最寄り駅。 いつもは一緒に家まで行って、そのまま家に泊まる親友の美香ちゃんは、明日は珍しく休日出勤のためここでお別れだ。 「大丈夫だよ〜」 僕はなんだかふわふわして楽しくて、へへへと笑った。 「やっぱり家まで送ろうか?」 改札の向こう側とこっち側。 大丈夫だって言ってるのにバッグからICカードを取り出したのを見て、僕はその手を止めた。 「お家すぐだから大丈夫だよ〜」 なのにまだ苦い顔。 「そのへらへら顔が心配なんでしょ?」 なんて言うから、僕は口元を引き締めた。 「大丈夫」 ちょっと真剣に言ってみた。するとじっと僕の顔を見て、 「本当に大丈夫?」 て言うから、僕はそのまま口元を引き締めてもう一度言った。 「大丈夫」 じっと見つめ合うこと数秒。 「家に着いたらメッセージしてね」 その言葉に僕は頷いた。 「分かった」 そしてようやく、美香ちゃんは帰りのホームへ向かってくれた。その背に笑顔で手を振って、僕は家へと歩き出す。 今日も楽しかったな〜。 そう思いながらふわふわした気分のまま家へ帰った。 ・・・そして、次に気がついた時は朝だった。 パッと目が開いて、一瞬自分の状況を見失う。 あれ? 僕、家へ帰るために歩いていたはずなのに・・・。 僕はベッドの中にいた。 美香ちゃんと別れて歩いていたところからの記憶が無い。だけど僕は、ちゃんと自分の家の自分のベッドに寝ている。 覚えてないけど、ちゃんと帰ってきたみたい。 洋服も着替えてちゃんと部屋着を着ているし、スマホを確認したら美香ちゃんへ帰ってきたとメッセージも送っていた。 ・・・・・・・・・。 何も覚えていないのはちょっと怖いけど、別におかしなところもないし、ドアを見たらちゃんとカギもかけてある。 そう言えば美香ちゃんが、僕は酔っててもいつもちゃんと自分の足で家に帰って着替えて寝るから楽だって言ってた。今回は美香ちゃんはいなかったけど、ちゃんといつも通り行動したらしい。・・・とは言うものの、ちょっと心配になってカバンの中や部屋の中を見たけれど、特に無くなったものはないし、おかしなところもなかった。 まあ、何も無かったということで。 そう結論づけて、僕はいつもの休日を過ごすことにした。 でもなんだかお腹が変な感じがする。 なんか重たいような痛いような・・・。 飲みすぎちゃったかな? そんなに量は飲んでなかったけど、体調で酔い方が変わる。 先週発情期が明けたばかりだったから、本調子じゃなかったのかもしれない。 前はこんなこと無かったのに・・・。 人知れずため息が出る。 僕も今年で29歳。立派なアラサーだ。 もう若くないってことだよね。 ちょっと寂しくなりながらも、この週末は動画を見たりして大人しく過ごした。 そして再び日常が始まる。
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