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お互いの知らなかった仕草や、雰囲気。新しい一面を見るのがなんだかすごく楽しい。
他愛もない話を、こんなにも普通に話しているのが、まだ信じられない。
そうだ、松原くんに大事なことを言ってなかった。
「松原くん、あのね。もう知ってるかもしれないんだけど、私、本店に転勤になるの」
「は? いつから?」
「今度の月曜日」
「え、そんな急に……?」
「うん。なんか岐阜店の店長が推薦してくれたみたいで……。本社勤務の松原くんとは、顔合わせることはあんまりないかもしれないけど、よろしくお願いします」
私はペコっと頭を下げた。
「それは、まずいな」
「え? なんで? 力不足だけど、一生懸命がんばるから……」
「ごめん、そうじゃなくて」
「?」
「本店は男性社員も多いからさ。心配というか、なんていうか……」
「あぁ、足引っ張られるってこと?」
昼間、琴美ちゃんが言っていた、『ちょっとしたことで足を引っ張られるところ』という言葉が頭をよぎる。
「足引っ張られる? ああ、そういう人もいるかもしれないけど……なんかあったらすぐ言って。俺は社員の相談窓口兼ねてるし。いや、そういうことじゃなくて」
「どういうこと?」
「朱音のこと、女として見る人もいるってこと」
ああ、そっか。トラウマのこと心配してくれてるんだな。
「ありがとう、よっぽど大丈夫だと思うけど……」
「あのな、その無自覚が問題なんだって」
松原くんが何を言っているのか、さっぱりわからないが、心配してくれている気持ちは伝わった。
「とにかく、困ったらすぐ相談して」
「はい……」
……話題変えよう。
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