プロローグ

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「学校で傷付けて養護教諭に処置してもらったのか?にしては、一瞬しか見えなかったが、ハートマークが散っていた。そんな可愛らしい絆創膏を、養護教諭が生徒に使うとは思えない」 思春期の男子に、ハートマークは抵抗がある。特定の生徒にだけ使用していれば、贔屓にしていると噂になり、最悪いじめの対象だ。 「君はずぼらな性格だとも聞いている。絆創膏なんか持ち歩かないだろう。ならそれは、几帳面に絆創膏を持ち歩く女子のおかげだ」 女子、という言葉に透吾は露骨に反応し、目を伏せた。無意識だとしても分かりやすく、俺は溜め息すら吐きそうになる。 「君が部活に出る日は、誰かが代わりに世話してると思っていたよ。性別までは分からなかったが、女子だったんだな。それも、秘密にしたい理由の一つか?」 思春期の男子だ。校内ならまだしも、校外で一緒に行動している姿を目撃されれば、冷やかされるのは明らか。二人きりなら、尚更に。 透吾は水泳部でエース。そして、顔立ちも良い。校内のヒエラルキーでは、上の方に属しているだろう。 だからこそ、築いた関係が崩れるのを恐れている。思春期故の、大きな悩み。 だが女子と二人、秘密を共有していることに、喜びを見出だしてもいる。これもまた、思春期故。捨て犬の世話を、女子と一緒に。 思春期だから、隠したい。それで多香子は納得しないだろう。 『息子の秘密を突き止めて』 多香子からの頼みは達成しているが、それを伝えれば、透吾から殺意にも似た敵意を向けられる。中学生の殺意など、たかが知れている。向けられても、痛くも痒くもない。 「廃工場に捨て犬か」 透吾の目を見据え、冷淡に告げる。 「君はまだ秘密にしておきたいのだろうが、犬にとってその環境はよろしくない。保健所に連絡して引き取ってもらおうか」 「は?ふざけーー」 「それか、俺の知り合いの愛犬家に引き取ってもらうか」 「……は?」 打って変わって、明朗な口調で。出鼻を挫かれた透吾は、唖然と、開いた口を閉じれずにいた。その驚き様が、俺の口角を上がらせる。
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