訪い

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訪い

名門、とは常々聞いていた。 グレゴール・アンナエウス氏の家も立派だったし、ある程度理解はしているつもりだったけれど……想像以上の豪邸を見上げて、正直なところ気後れしている。 彼の家族は全員、現役当時ラウンズの所属だったと言うので本部からほど近い場所にあることは納得できる。 しかし本部から北に位置するこちら側は下級貴族や豪商が多く住む、いわゆる高級住宅街。 そこにこの広大な庭を有する大邸宅を構えるというのは、考えただけで目眩がしそうだ。 どうしよう、ルカがこんなにお坊ちゃんだったとは。 私は超が付くほどの庶民なのに大丈夫なんだろうか。 呆気にとられて立ち竦んでいると、彼は訝しげな顔で尋ねた。 「何か余計な事を考えてませんか?」 「今更なんだけど私、庶民なんですが……大丈夫?」 ルカが私を見て吹き出したので、唇を突き出して拗ねて見せる。 笑わなくても良いじゃないか。 「真面目な顔で何を言うかと思えば……言ったでしょう? 君じゃなきゃダメなんです」 ふわりと笑って躱されてしまった。 とうとうアンナエウス家当主である父親と対面させる日が来た。 ルカが父親と何を話すつもりなのかは知らないが、辛い思いをしないで欲しい。 止められないのなら、私の出来ることはもう祈る事くらいしかない。 ルカの華奢な手を取り、両手で包む。 小さいけれど武具を握り慣れた硬い手、いつも背中を押してくれる優しい手。 「どうか……ご武運を」 きっとこれは、彼にとって過去と決別するための闘いだから。 「勿論です」 にっこりと力強く、でも蕩けてしまいそうなほど優しい微笑みを浮かべて彼が笑った。
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