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第一章 出会い
親や先生に「人に悪口をいってはいけない。」と言うのを皆、教わるはずだ。俺は少なくとも教わったことあるよ。
皮肉とか侮辱とか存在否定とか。
色々さ。
小学校の頃に道徳の授業で「なぜ悪口を言ってはいけないか」という質問があってさ。
皆は「人が傷つく」とか「関係が壊れる」とか。まぁ色々あったよ。
その中で一人面白い回答をしたやつがいてさ、それが
「悪口にも正義はあると思うし、取り方によっては愛にも、助けにも、現実にも変わると思う。その悪口、ただの言葉という器でしかないものに、聞く人、見る人が何を注ぐか。それによって悪か善かは決まると思います。」
ってさ。
その頃の俺には理解できなかったんだよな。
でも今になってよくわかるよ。
助けって言うのはさ。直接的に言えるものじゃないってな。
これは三年前の話なんだが、金がない俺はひたすら助けとか逃げ道とか運とか。そんなものを漁っては絶望していたよ。
俺は朝起きて少しヒビが入ったテレビを何も考えず見てたんだ。そしたらさ、金が殆どない俺を誘惑するかのようなニュースがやっててさ。
「このネットカフェに行けば運気があがる」とか言いやがるんだ。馬鹿らしいよな。神社とかならまだわかるが、ネットカフェだぜ?
そんなのあるわけないだろ。と気づいていながらも俺は内心興味が沸いてしまっていた。
気づくと俺は考えるのをやめていた。
後日、噂のそのネットカフェに行ってみてさ、金欠なのにわざわざ金を払って泊まるんだ。家もあるのにな。
そのネットカフェにはいると店員にまず、
「金運とか寿命の運とか。そんないい運ばかりじゃないですよ。悪運とかそう言うのがあがる人もいます。どうか幸を。」と言われて個室に案内された。俺は混乱しながらも人生で一番冷静になれた気がした。
「よく思えばひとつの言葉には"言葉が付属する事"がある。」そう思った。
幸せには不幸があり、利益には不利益があり、運には不運がある。
幸せになる。という言葉は不の幸せかもしれないし、利益が上がる。という言葉は良くはない利益があがってるかもしれない。
そんなことを考えながらパソコン一台とベットだけがある部屋に入り、勢いで来てみた手前、ここにいてもする事などないので少し寝てから本が読める開けた場所へいった。
そこは雰囲気が図書室みたいでさ。懐かしいよな。普通に働いてれば図書室に行く機会なんてなかなかない。
気づけば俺は「戻れるなら戻りてぇな…あの頃に」と言っていた。
俺は本を手に取り、小柄な女の人が一人座っているテーブルの椅子に腰を掛けた。そうすると女の人が、「見た感じお金が尽きそうな感じなのにわざわざお金を払ってまでネットカフェに来るんですね。暇なんですか?」と言われた。
正直いって今の俺には刺さる言葉だったが、同時にこの人は俺と似ていると感じた。
普段の俺なら怒るか、無視をするだろう。おかしくなっていたのか、俺は女の人に「暇なんですよ。死ぬまで飛びっきり。ね。」と返した。
そしたら女の人が真顔で「そうですか。」
とだけ返してきた。このときの女の人の顔は視覚的には真顔だったが、心なしか少し悲しそうに見えた。
数分表情を変えずに本を読む女性に対して俺は、「好きな本とかあるんですか?やっぱり。」と聞いた。
女性は真顔で本を読みながら流すように「別に。」と言った。
俺はやっぱりおかしくなったんだろうな、めげずに「僕は寿命とかの重要さに気づける本が好きですね。」
と言った。
そしたら女性は以外にも「寿命とか幸せとか簡単にいいますけど、言うだけなら物心ついてなくたってできるんですよ。」と言って反応を示した。
それに対して俺は「幸せとか不幸とか。人の基準が異なるものを簡単に語るな。ってことですよね。」と言った。すると女性は少し微笑みながら「わかってるじゃないですか。実際に幸せになった人が幸せを語っても、幸せなんか何百年、何千年、いや、一生考えても見えてこないんですよ。」と少し下を見ながら言った。
それに対して俺は「僕の好きな本にこんな言葉がありましてね。幸せなんて物はない。ただ、ご飯を食べる。とか昼寝をする。とかなんでもいいんです。その少しの"喜び"の積み重ねこそ"幸せ"まで行かなくとも、ある程度楽しいのではないのでしょうか。その楽しいの積み重ねをすればきっと見えてくるはずです。幸せではない別の。」俺がそういうと女性は「楽しいの積み重ねをするにはどうすればいいかまでは書いてないんですね。」と言って初めて少し笑った。
女性が笑ったとき俺の中で何かが変わった気がした。そう。"気が" ね。
俺はそろそろ個室に戻ることにした。
俺「それじゃあ僕は戻りますね。読書を楽しんでくださいね。」
女性「えぇ。私は楽しみの積み重ねについて勉強でもしておきます。」
俺「勉強するようなことなんですかね」
女性「それもわかりません。だからやってみます。」
俺「僕にはない挑戦力ですね。」
女性「挑戦するだけじゃ意味ないのが現実ですから。」
俺「挑戦できるだけ僕より幾分かましですよ。」
女性「嬉しくないです。」
俺「ですよね。笑」
俺「そういえばお名前を聞いてませんでしたね。僕は盛跳(さかや) って言います。」
女性「私はイトって言います。夏場 イト。」
俺「イトさんですか。覚えておきます。」
イト「じゃあ今日はお休みなさい。」
俺「お休みなさい。」
そう別れを告げて個室に戻る。
何事もなく個室に戻りベットにすぐさま横になると、「楽しかったなぁ」と声を漏らす。
金のことばかり考えるのが日常だった俺にとって今日の出来事は楽しかったし、嬉しかった。
そんなことを思いながら、今日は眠りについた。
第一章終
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