scapegoat

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「俺、中学のときに同級生の男と付き合ってました」 突然の暴露は想像の斜め上をいくもので、テレビの向こうはざわついていた。 「え、そうだったんだ」 カノジョはテレビを見ながらキョトンとしている。俺らもへぇーって適当に相槌をうつ。 「もちろんもう別れましたけど、この間久しぶりに会って。仕事先で。向こうは書道家やってるんですけど」 けれど、奴がおかしなことを言い始めてから、こっちもざわつき始めた。 「書道家って……お前の他にもいるの?」 「いや、聞いたことないけど」 「じゃあそれって」 カウンター席の空気がだんだん不穏になっていく。 「俺っ? 俺じゃないよ、付き合ってないし!」 カノジョはすっかり酔いが覚めたように、目を丸くして首を横に振った。 テレビの中の出演者たちは、矢継ぎ早に奴に問いかけている。 「え、なんで別れたんですか?」 「同性の方が好きな感じ?」 「ちょっと意外だなぁ、でもいいんじゃない?」 「書道家っていうのがカッコいい」 これあれだな、すぐにネットニュースになるやつだな。 カノジョは顔を赤らめてテレビを見ている。ポカンと口を開けているのが可愛い。いや、それどころじゃないんだけどさ! 「お前のことじゃないの?」 兄さんは軽く首を傾げている。
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