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「あ、あの! ……これ、こっちまで飛んできちゃって」
「あ、そっか。ごめんねー、気づいてたら私が蹴り返してあげたのに」
私の言葉に、一宮さんの表情がぱっと明るくなる。一宮さんは表情ゆたかだ。感情のひとつひとつが大げさに顔に出るから、漫画の中のキャラクターみたいでかわいらしい。
一宮さんが転校してきて三ヶ月、挨拶以外で会話をしたのは今日がはじめてだった。
今日はラッキーな日だな。
ほくほくしながら校庭に戻ろうとすると、一宮さんは、あ、と言って私を引き止めた。
「ねぇ、ちょっとここで休んでいきなよ。先生にバレるまで、さ!」
驚きの提案に、またも体が固まった。
でも、一宮さんは私が何かを口にする前に、手を取って朝礼台の上へ引き上げてようとしてくる。
「ま、ま、待って! 私、戻らなきゃ」
「あ、佐藤さんってもしかして、体育好きな人?」
「好きなわけじゃないけどっ。風邪ひいてもないのに見学はできないよ」
それでも引っ張られて、とうとう四つん這いのまま朝礼台に上がってしまった。一宮さんは、佐藤さんマジメ!と言って笑っている。その顔に、硬直してうまく笑い返すことができない。
本当は、一宮さんと話せるのはうれしい。だって彼女は、ずっと見てきた私の憧れなんだから。
でも、だからこそだめなんだ。
二人で並んでいる光景を頭の中に思い浮かべるだけで、いたたまれない気持ちになってしまう。
しっくりこない。私たちは、釣り合わなすぎる。
月とスッポン。
マシュマロと、なんの味もしない寒天。
「私ね、佐藤さんとおしゃべりしたいなーってずっと思ってたの」
マシュマロが急におかしなことを言い出しすので、思わず喉の奥から変な音が出てしまった。
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