挿話・四〇〇年の孤独

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挿話・四〇〇年の孤独

 400年程度遡る昔、霊狐には忠誠を誓った主人がいた。  筑前博多の要所を守護する立花山城。  そこを守護する豊前国大友家大老が一人、戸次道雪の一人娘である姫城督・誾千代(ぎんちよ)。  彼女に仕える霊狐使いの侍女が、かの霊狐の主人だった。  誾千代は戦国の世でも稀な、正式に父より城を譲り渡された姫城督だった。  後に西国無双と謳われる立花宗茂(たちばなむねしげ)を婿に迎えるまでの数年間、彼女は姫城督として父の持つ全てを背負っていた。  夫を迎えた後の誾千代は世の武将の妻と同じように戦場には出ず、奥の管理や人質としての勤めを全うしていたが、父から譲り受けた財産のうち霊狐使役の管理においては、霊力をもつ彼女が生涯受け持ったとされている。  夫宗茂の改易中に、博多より遠く離れた土地で没した彼女について、残る記録は殆どない。  わずかに残った逸話として、彼女が父と同じように稲荷神を厚く信仰していたこと、彼女が帰還する夫の為に霊狐を迎えに出したこと、そして没する直前、夫の無事と再士官を霊狐に願ったというものが残されている。  薄幸の姫城督に生涯仕えた、霊狐使いの侍女がその後どうなったのか。  そして彼女が使役していた霊狐の行方がどうなったのか。  記録も逸話にも勿論、残されていない。
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