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男友達
彼氏と別れた。
男友達にキスされて、彼にそのことを話したら責められた。
それに言い返してしまったのが原因だ。
その友達とは小さい頃からの付き合いで、どこへ行くにも一緒だった。
学校、買い物、ライブ……。
でも彼氏と付き合うようになってからは、私達は会わなくなった。
この前彼氏と会った後家へ帰る途中、しつこく声をかけてくる男がいた。
「急いでるので……」
そう何度言っても聞いてくれない。
その時助けてくれたのが友達だった。
よほど怖い顔をしていたのか、彼の顔を見るなりしつこい男は怖がって逃げて行った。
「ありがとう。久しぶりだね」
そう言うと、彼は家まで送ってくれて、突然私にキスをしようとした。
触れたのか触れなかったのかわからないまま驚いて口を押さえると、友達はすまなそうな顔をして頭を下げると消えてしまった。
彼氏に隠し事はしたくない。
でも正直に話した私を彼氏は責めた。
ケンカは長引いて、結局別れることになったけど、後悔はしていない。
仕方ない。
私でも彼氏が女友達とキスをしたら怒るだろうから。
でも男友達は、私を本当に大切にしてくれる。
話はできないけど、私を守ってくれる。
そんな人と付き合えたら、きっと幸せなんだろう。
でも私達は付き合うことはできない。
今日は私の方から友達に会いに行く。
「会いに来たよ」
手を合わせて、友達の好きなお菓子と私の大好きな花を供える。
中学生の時、友達は事故に遭った。
急な出来事で、私は自分の気持ちも伝えられなかった。
優しい彼は、その死を受け入れられずに毎日泣いて過ごす私の所に会いに来てくれた。
一緒に出かけてくれた。
私を心配して、この世にとどまってくれた。
彼の後を追おうとする私を止めてくれた。
これじゃいけない。
彼を解放してあげないと。
でも、その為に誰と付き合ってもうまくいかなかった。
彼を解放したいのに、私がキスを拒んだと思われるのは嫌だった。
私は何てワガママなんだろう。
「ねぇ、聞いて。
私もあなたが好きだよ」
素直な精一杯の思いを伝える。
伝えたいことはたくさんあるのに、言葉にするととてもお粗末で笑えてくる。
「あなたがいなくて寂しい。
でもあなたをここに引き止めるのは辛いの。
私はもう大丈夫。
だから天国で待ってて」
涙が溢れて前が見えない。
でも涙の向こうに彼が見える。
優しく頷くと、彼は明るい光の中に消えて行った。
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