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「僕が働いていた施設の理事長は良い人でしたよ」
将己が反論した。
「そりゃ、中には良い人もいるだろう。だが、真面目に丁寧な仕事をしている施設ほど経営は苦しいはずだ。仕事を効率よく誤魔化し、補助金を上手くもらって介護士をこき使う。そうした施設じゃないと生き残れない。おまけに俺たちは、あんな年寄りのために高い年金を納めなきゃならない。俺たちが年寄りになった頃には、年金制度などなくなっているかもしれないのに、だ。不公平だろう?」
武雄の眼が真尋に向いていた。
「ハァ……」
真尋は年金制度のことをよく知らない。20歳になってはいたが、大学生なので支払い留保の手続きをしていた。まして介護業界のことなど何もわからなかった。
「おまけにどうだ。そんな年寄りが出資している大きなジムが国道沿いにバンバン出来ている。この2年で3軒だ。お蔭でこっちの客は減りっぱなしだ」
武雄が怒っている。その相手が誰かは分からないけど……。真尋は嫌な気持ちになっていた。ところが将己は違うようだ。
「僕らも頑張らないと、ですよね」
武雄を励ますかのように明るい口調で言うとチェストプレスに向かった。
「イモは能天気だな。……またチェストプレスかよ。どれほど大胸筋が好きなんだ」
彼の嫌味に将己は動じなかった。振り返ると二カッと笑った。
「大胸筋はマッチョのシンボルですよ」
「ゴリラみたいに胸を叩いてアピールするつもりか?」
「ドラミングは得意ですよ」
反らせた胸を叩くと、ドンドコと鈍い音が響いた。
「どうです?」
「なるほど……。せっかくだ。それをビルの前でやって客を呼びこんでくれ」
呆れ顔の武雄は机に戻り、貯金通帳に視線を落とした。
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