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 扉が二つ。赤と青。無辺際に広がった白の空間にそれらが在る。 私はなぜここにいるのか。ここは一体どこなのか。 人工呼吸器を着けて眺めた、病室の寂寞(せきばく)たる天井だけが、 くすんだ情景として記憶の底に沈んでいる。  忽然と背後から男の声がした。 「やあ、伊藤様。どうもどうも。専属見届人のヴォイドでございます。  短い間になるとは思いますが、以後お見知り置きを」 恐る恐る振り返った先で、 年若い紳士がシルクハットを取り、腰を浅く屈めていた。 銀鼠色に光る長髪は鋼の如き質感で、人間的情緒を欠片も滲ませない。 程なくして上げられた顔には、薄気味悪い微笑みが貼り付く。 「おい! 誰だか知らないが、状況を説明してくれ!」 どちらかと言えば社交性に長けている方ではないのだが、 このときに限っては自然と体が前に出た。 語気鋭く迫る私を、ヴォイドは無慈悲な事実を告げて宥める。 「貴方は一度死んだのですよ。正確にはまだ仮決定の段階ですがね」
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