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だって寂しかったから
「くれぐれも今後こんなことがないように、家の方とよく話し合ってください」
警察署なんて免許の更新くらいでしか来る必要のない所だと思っていた。
隣に座る日和は俯いたままだから、交通安全課の担当者に俺だけとりあえず深く頭を下げる。
なぜか友人の宗像から連絡があり、何かと思えば10歳年下の義妹の日和が警察に補導されて、身元引受の依頼がきたらしいという内容だった。
迎えに行けば、初犯ということで口頭による厳重注意で釈放されたわけだけど・・・・
「・・・・迷惑かけてゴメンナサイ」
警察署を出たところで、俯いたままの日和から消え入りそうな声がした。
「あの、もう大丈夫だから。仕事抜けてきてくれたんだよね?会社戻って・・・あと宗像さんにも宜しくって・・・・・」
宗像にヨロシクって、何を宜しくだよって言いたくもなる。
久しぶりに会う日和は背だけが伸びていて、細くて顔色が悪い。痩せたような気もするけど。
彼女の母親であり、束の間、俺の義母だった女は日和を連れて5年前、俺の父親から家を追い出されていた。
「どこが大丈夫なんだ?このまま家に帰るのか?そもそも母親はどうした?」
何も答えない日和をこのまま放置するわけにもいかない。
「とりあえず、今は俺んとこ連れてくわ。お前の母親に連絡する。もう遅いし・・お腹とかは空いてないか?」
あまりキツク言えば、どんどん喋らなくなりそうで、少し声のトーンを柔らかくする。昔は日和の方から抱きついてきたものだけど・・・・もう15歳になるのか。
「大丈夫」
大丈夫としか答えない日和にちょっとイラついた。流しのタクシーを見つけて、有無を言わせず日和を押し込める。
日和はいわゆるガールズバーの摘発にあった店にいたから、ということで補導されたらしい。お店自体はカフェを装っていて、気に入った女の子がいればホテルへという流れの店。パパ活とやらにも使われていたと聞いた。
日和はまだ中学生のはずだから、いろいろ法に触れることも多い。
この状況って、あの母親のことだから、ニグレクトの可能性も高いということか。
タクシーを降りて、歩みを止めてしまいそうな日和の腕を引くように、部屋に連れてくる。
それでも、玄関から部屋に上がろうともしない。
「ここまで来たんだから、あがったら?」
「奥さんは?」
「今、一人だから」
日和はかなり躊躇しながら、靴を脱ぐ。
「ソファに座って。なんか食べたいものとかある?」
昔はホットミルクが好きだったなと思い出したところで、俺の冷蔵庫にはそんなもの入っているはずもない。冷蔵庫を開けて、ミネラルウォーターのペットボトルを取り出し、日和に渡す。彼女は反射的だろう、腕を伸ばして受け取った。その時だけ、一瞬目が合う。すぐ逸らされてしまったけど。
中学生の女子が好むものも分からず、ピザならいいだろうと適当にネットで注文する。
ふと日和を見れば、渡された水を勢いよく飲み下していた。
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