大江戸闇鬼譚

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「飛鳥さんがただの町人なわけがない。そんなこと、解っていたのに」  武士の雨月がやって来ることだけじゃない。その博学な知識も、一般の町人が持ち得ないものだ。それだけでも、かなり特別な立場にいることが解る。 「何者か。教えてくれないのかな」  しかし、一番優介にとって衝撃だったのは、飛鳥がその場で説明をしようとしなかったことだった。  いつもならば、これはこうだと蘊蓄を垂れてくれる。実はこうだったんだと説明してくれる。  それなのに、雨月の礼を受けて自分の身分がバレた時の飛鳥は、何とか誤魔化せないかと考えていた。若と呼ばれたことへの動揺を、隠すことが出来ない顔をしていた。  それが、何だか傷ついた。 「俺に遠慮しているってのも、あるんだろうけどさ」  何か、言ってくれても良かったじゃないか。  また後でと誤魔化すことなく、実はさって、気軽に言ってくれればいいじゃないか。  それほどまでに、飛鳥は旗本の次男坊よりも遠い存在なのだろうか。  そんなことを考えると、優介はますます布団から抜け出せなくなるのだった。 「あいつ、見事にそのまんま書いてやがるな」
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