民話・雨姫物語

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民話・雨姫物語

 東北地方のある地域で、代々口伝にて受け継がれてきた話だと聞いております。  昔々。山間にある、とある村で、幾日も日照りが続いた事がありました。干上がった川には腐敗した魚にハエがたかり、風が吹けば土埃が立つ。水不足で作物も育たず、貯蔵していた食糧が尽きるのを待つばかり。村は活気を失い、老若男女、うな垂れて過ごす日々でした。  そんなある日。村の若衆の龍之介が食料を求めて山を歩いていると、川の方から幼い少女の泣く声がする。草木を掻き分け覗いて見れば、乾いてひび割れた川の跡地に少女が座り込んでいた。龍之介は、この辺の者ではないなと思いました。絹糸のように艶のある長い髪。陶器のように白く透き通った肌。何よりも、身に纏う煌びやかな着物は、どこぞの城のお姫様のようでした。 「おい、どうした」少女は答える事もなく泣き続けます。どうしたものかと困った龍之介は、ふぅ、と一息つくと、懐から竹筒を取り出しました。「たいして残ってはないが。水じゃ」竹筒の中身は残り僅かとなった飲み水です。それを少女に差し出したのでした。
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