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怒っている人から受ける炎は、私に直接向かうものだけじゃない。
怒っている人に立ち会ってしまったら、火の玉を投げられた人の痛みが、私の体にもずぶずぶと入り込んでくる。直接よりもゆっくり、低温でゆっくりと胃の辺りを焼いていく。街中も映画でも、ニュースの映像でもそう。
それでも、実際に怒りの的にされた本人より、程度は低い。
(岩本さん、辛そうだったな……)
会議中じりじりと痛むのをこらえていながら、埼玉店の報告をする岩本さんは苦しそうな顔も見せずに、全身を焼け焦げていくのを見た。
(本当は、きっと痛かったはずなのに)
「戻りました、ご迷惑おかけしてすみません」
体調が落ち着いて急いで自分のデスクに戻ると、本社チームの先輩方に萎縮して頭を下げる。
「武田さん、さっき埼玉店の岩本店長がメモ残していったわよ」
パソコンに黄色い付箋が貼られていた。
『会議室に置きっぱなしだったので、運んじゃいました。勝手にごめんね。おだいじに。 岩本』
丸みのある文字は、肩をすくめて笑う表情を思い出させた。
パソコンモニターの右下の時刻は、15時過ぎを表示している。会議後、本社から埼玉店にちょうど戻った頃かも知れない。店の迷惑になってはいけない。お礼なら一本メールをすればいい。
「……お、お疲れさまです。本社の武田です」
『あれ、武田さん? もう良くなったの? 大丈夫?』
埼玉店に電話すると受話器越しに、岩本さんの明るい声が跳ね返ってくる。
(良かった……。少し元気になったみたい)
「お忙しいにも関わらずすみません! お礼を言いたくて、パソコンと医務室の」
『そんなのいいのに! 武田さん真面目だね。それに、辛い時は頼ってくれていいんだよ』
暖かな声は、私の胸に火傷とは違う熱をほんのりと灯した。
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