楽しい遠足の準備(ファンタジー編)

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源一は鼻歌混じりにクローゼットからリュックサックを取り出した。 明日は楽しみにしていた市立動物園に遠足に行く。 するとふと、リックが妙だと気になった。 リュックの底を見ると、直径五センチほどの黒い穴が開いていた。 ―― なんで… ―― と思って、右手の人差し指で穴に触れると、源一は何かに吸い込まれたような感覚に見舞われた。 源一は目を見張っていた。 そして一番に気付いたのは、手にリュックを持っていないことだったがそれは一瞬で、自分の部屋がジャングルになったと思い、辺りを見回した。 源一は急に悲しくなってきた。 だが源一は泣かなかった。 このような夢を見たことがあって、その時は泣きわめきながら森を走り出して、たくさんの動物に追いかけられたのだ。 しかしその時はハッピーエンドで終わったので、それほど悪いイメージはない。 ―― きっと、寝ちゃったんだ… ―― と源一は思って、これは夢だと決めつけていた。 源一は警戒しながらも忍び足で移動を始めた。 走り出すと前のように動物に追いかけれらるかもしれないなどと考えたようだ。 道などはなく、足元には短い草が生えてる。 そして所々に小さな花が咲いている草もある。 辺りは太陽が出ているようで暗いとは感じないが、所々に差している陽の光が異様に明るく感じる。 それほど気にして見ているわけではないが、虫や動物はいないように感じていた。 だが、声を出すと木々から怖い動物が顔をのぞかせるのでは、などと考えて、声を出すことはしなかった。 よってかくれんぼのように、木の裏などを見たが何もいない。 木を見上げたが、動物がいる気配を感じない。 その時、前方から何かの気配を感じて、源一はどうしようかと考えた挙句、何とか登れそうな木を見つけて、低い枝にぶら下がり、身軽に一気に上半身を枝の上に乗せてから枝に足をかけ、上にある少し太い枝の上に昇った。 そして気配がある方角を見入った。 葉が多いので、下からは源一の姿は見えないと感じて息をひそめた。 「ここら辺りに来たはずだ!」と大きな声が聞こえた。 声は大きいのだが姿は見えない。 源一は少し先を見ようと思って葉を押すと、手足は人間で顔が犬の槍を持った者が見えた。 源一は無意識に手のひらで口を押えた。 「まあ、確かに反応はあったけど…」 少し後ろから歩いてきたのは、弓を持った、顔が猫の人間だった。 「人間の子供なら確実にいるはずだから、  今度は大人か?」 白い顔の犬の獣人が言うと、「僕としては子供の方がいいね」と黒い顔の猫が答えた。 「だがな、大人の方が強いぞ。  小さな子供だったら泣いてばかりで役に立たん!」 「だけどね、今回はいい予感がするんだよねぇー…」 源一は手で口をふさいだまま、「子供だけど泣いてないぞ!」と少し叫ぶように声を放った。 犬と猫は声の出どころがよくわからなかったようで、辺りを見回した。 「あー、きっと、すごい子だぁー…」と猫は探しながらも喜びながら言った。 「ああ! この時点で大合格だっ!!」と犬も上機嫌で言った。 源一は今頃になって気づいたのだが、犬と猫は源一の身長の半分ほどしかないと判断した。 ―― 小さい獣人だぁー… ―― と源一は思って、ふたりの背後に飛び降りた。 ふたりはすぐに振り返って源一を見上げた。 「はは、小さいんだね」 源一の言葉に、「まさか、空を飛んでいたとか…」と犬が言うと、源一は指を木に向けて、「上に昇ってた」と言うとふたりは納得したようで何度もうなづいた。 「ここってどこでなんなの?」と源一が聞くと、ふたりは交代しながら説明した。 「ふーん… 簡単に言うと、人間を誘拐してきて魔女を倒すってこと?」 「あ、ダメだ!  今日はもう時間切れだ!」 猫が叫ぶと、源一は床に寝そべっていた。 源一は顔を上げて自分の部屋だと思って体を起こした。 ―― …夢… ―― と源一は思ったが、夢ではないと自信を持った。 源一の手には、おもちゃにしか見えない、手のひらよりも小さい剣と盾があった。 ―― きっと、あっちに行かないと本物にならないんだ… ―― と源一は勝手に思い込んだ。 源一はいつも持ち歩いている、茶色のボディーバックの、使っていないファスナー付きのポケットに剣と盾を仕舞った。 そしてリュックサックを見たが、黒い穴はなくなっていた。 源一は次はどこに黒い穴が開くのか楽しみになっていた。 それがどこに現れるのかはすぐにわかった。 剣と盾を仕舞ったボディーバッグの中央に穴が開くと確信していた。 しかし今は黒い穴がないので、あっちの世界に行くことはできない。 源一は明日の遠足の準備を済ませて、期待に胸を膨らませて、リュックではなくボディーバッグを抱きしめた。 ~~ おわり。だけど、続く、と思う… ~~
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