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 もし。明日世界が終わるなら。    それはベタなSFに含まれた、ありきたりな展開だと僕は思う。それに、世界が終わるタイミングなんて地球のきまぐれで決まるわけで、僕らが構える必要などさらさらない。    だけど、もし明日から世界の繁栄が止まるとすれば。    それについて僕はひとしきり考えてみたが、まるで想像もできない、未知の領域に突入すると思っている。    さらに、あらゆる繁栄が反転して、衰退こそが世のため人のためになるとするなら、果たして僕らは幸せだろうか。    例えば電車はエネルギーを使うからと排除され、代わりに馬車や人力車に代わる。冷蔵庫もエネルギーを使うから排除。昔ながらの氷を使用するタイプに取って替わる。車なんて論外。自転車または歩け。車椅子でもいいけど。物流だって様々なエネルギーを使うからダメ。みんな自給自足をして暮らせ。米と少しの野菜さえあればいい。そもそも、アイスクリームなんて甘いだけだ。糖分が欲しけりゃ米で補え。無駄に電気なんて使うんじゃない。見ろよ、地球が悲鳴をあげているぞ。これからは太陽が全てだ。太陽に従って生活をしなさい。最終的には原始人を目指しなさい。    こんな世界。それが僕らの未来になるとして、つまり繁栄を捨てた未来が僕らを幸福へと導けるか。    僕は間違いなく人類が狂い果てると思っている。これだけ欲を満たすために暴れてきた生き物だ。欲のために科学を発展させ、欲のために自然を破壊する。それが人間のエゴだ。当然、僕だって立派な加害者だろう。そして罪深いことに、その欲は増大し続ける。だから僕らは繁栄を求めるのだ。  それを止めることは、根本的に人間の営みを破壊することにつながる。二千二十一年を生きる我々を否定し、やがて人間が人間であることを辞めることになる。  それが、世界統一政府の決定事項だと言う。  何が彼らをその思考へ持っていったのか。もしかしたら宇宙人にでも脅されたのかもしれない。これ以上地球で遊ぶなと怒られたのかもしれない。世界統一政府はアダムとイブよりも遥か昔の世界を求めているらしい。それが恒久的な平和につながると。戦争のない世界を作れると。  なるほど。ついに彼らは共生ではなく共に心中することを選んだらしい。それが地球を浄化する唯一の手らしい。  ならば、僕はそれ以上抵抗する理由はなかった。あらゆる欲を満たすために生きる命が終わる。繁栄という名のテーマは永遠に僕たちを縛り続ける。良くも悪くも、果てしなく続くテーマである。それが終わる。それだけの話だ。  僕は電気で動く冷蔵庫からビールを取り出して、テレビ画面にアダルトビデオを映して、それを見ながら柿ピーと共にビールを流し込む。欲望に塗れた心身が最高だと踊っている。幸福か不幸か。答えなど出せるはずがない。だけど一つだけ言えることがある。  これから、この世界は欲望に満ちた人間たちによって荒らされるだろうな。  繁栄が終わる前夜。僕は繁栄によって生まれた産物で、人間らしく欲を満たす。
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