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野茨の頬の色に赤みがある。
夜露が慌てて彼の胸に手を置くと、心臓の鼓動が伝わってくる。
彼の時間が再び動き出したのが夜露にもわかった。
野茨が瞼を開ける。夜露に向かって微笑みかける。
「なんて言って愛の告白をしてくれたのか、わからないのは残念だね」
と言った。
それから「俺も、愛してる」と夜露に向かって伝えた。
夜露の瞳からは、ポロポロと涙がこぼれ落ちていく。
金色に光ったバラがサラサラと砕け散った。
「ああ、そこらじゅう怪我だらけじゃないか」
野茨が夜露が棘で刺されていたところについた血をみて、心配そうに声をかける。
夜露はそんなことはどうでも良かった。
ただ、野茨の呪いがとけてよかったという気持ち以外なにも無かった。
「茨の魔法が、彼を離そうとしなかったの」
紅玉が野茨に向かってそう言った。
野茨は逡巡した後「ああ、多分夜露に貰った祝福だね」と言って、そっと夜露の傷を愛おしいものを撫でるように触れた。
『あなたの愛する人があなたから遠ざかりませんように』
夜露が野茨と塔で初めてあった日に、彼のためにかけた言葉を野茨が言う。
いつか呪いが形になってしまった時に、彼の大切な人が彼の近くにいてくれる様に願った言葉だ。
ケーキのお守りで叶えた小さな小さな祝福が夜露を離さなかったと野茨は言っている。
「夜露、俺の呪いをといてくれてありがとう」
この優しい人は夜露を愛していると言った。
夜露が拙い愛を伝えたから呪いがとけたのだと教えてくれている。
涙は止まりそうに無い。
体が熱い。
自分が嫌われ者の魔法使いだと忘れたわけでも無い。
けれど、あまりにも野茨が優しく笑うので思わず夜露は彼に抱きついてしまった。
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