彼が書類を溜める理由

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「いい加減素直になってくれないと迷惑かかるのは僕だけじゃないんだから」 「なっ……っ……」 びっくりして言葉が出ない。この人は本当にどうかしている。私は潘さんを振ったのに。 「文句言いながらもちゃんと処理してくれる上条さんの優しさが嬉しかったよ。僕のこと気にかけてくれてるんだなって感じられたし」 「え……」 「毎回僕のこと探してくれる上条さんを見るのが好きなんだ。期限を守らない僕への怒りでいっぱいだったとしても、上条さんに僕のこと思ってもらえるとマイナスな気持ちでも嬉しいなって思ってた」 この言葉にポロポロと涙がこぼれた。 「上条さん!?」 潘さんが慌てて私の横に膝をつく。 「ごめん……ごめんね。意地悪なことして……」 本当に、なんて酷い人なんだ。考えが歪んでいる。今までどれだけ残業したと思っているのだ。私の苦労は計り知れない。 仕事だから期限を守らないといけないって責任を感じていた。領収書を出してこない人のことなんてどうでもいいって思えたらどれだけ楽だっただろう。 「無理、です……」 私を見る真摯な目に対して言葉を搾り出した。 本気なのか冗談なのか分からない軽い態度。私だけに構う理由が分からない。 私はただの事務員。淡々と書類を処理するだけの地味な社員だ。 「潘さんといると私、落ち着かないんです……」 これ以上近づいたらこっちが本気になってしまう。潘さんに惚れて傷つきたくない……。モテる彼には私では相応しくない。 「意地悪が辛い……嫌いになりそう……」 「ってことはまだ嫌いになってないの?」 潘さんが期待したような顔をするから私は更に涙がこぼれる。 「はぁ……」 今度は潘さんが溜め息をついた。 「上条さんさ、こうしよう」 潘さんは座ったままの私の腕を掴んで引いた。上半身が勢いよく潘さんの腕に包まれた。
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