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「じゃあ好きな人は? 気になってる子とか」
彼女もそこそこ酒が入っているのかけっこうグイグイ聞いてんなと思いながら、それ以上に春瑠の反応の方が気になってしまう。
レモンの香りがする炭酸が弾けるグラスの側面を伝う水滴を、両手で拭うようにしながらしばし言葉を切った後。
「――別に。……特には」
そう低い声でつぶやいた。
それを聞いた彼女は、今日もふんわりと巻いた髪の束を指先に絡め取るみたいな仕草で、ややうつむき加減の春瑠の顔を覗き込むように身体を寄せる。
「ねえ、じゃあさ……」
テーブルの下、俺が突いた膝と反対側の膝に綺麗なネイルの柔らかそうな指が置かれるのを視界の端で捕らえた時、彼女が言葉を漏らすのを遮るように春瑠の肩に腕を回して自分の方に引き寄せた。
「俺らデキてるって言わなかったっすかね」
まだなんだかんだ俺の女関係を質問している先輩に向かって話すフリをしながら、横にいる金子 由季に向け聞こえよがしにそう伝える。
顔はいつも通りヘラヘラ笑ってるけど、掴んだ手にはいつも以上に力が籠っていた。
その微妙な違いに気付いたのかそうじゃないのか、俺の腕に抱きこまれたこいつの驚いたような反応も、いつもとは少し違っていた。
「いやだから、お前らだとありえそうで怖ぇって」
「ちょっとぉ、男前同士でくっつくとかもったいないことやめてよねー」
そんな俺らを見て色々と言ってくるサークルメンバーに向かって、いつかのようにシッシッと手で追い払う仕草をしながら、引き寄せた春瑠の身体越し、向こう隣りに座る同級生を一瞥すると、
「こいつ俺のなんで」
唇の端だけ上げて笑いながら、誰に向けてというわけでもない風に、俺は以前口にしたことと同じ台詞を吐いた。
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