1st Impression.

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1st Impression.

 粉雪が舞う空港まで見送りに来てくれた祖母と両親を心配させないための笑みを浮かべ、気恥ずかしさから小さく手を挙げて機上の人になったのは、彼が現在暮らしている街からある意味傷心旅行の気持ちで実家に一時帰省していたリアム・フーバーという名を持つ30代半ばの立派な体格をした青年だった。  突然帰国した息子に両親は驚き理由を問い詰めようとしたが、息子は笑って誤魔化すだけで具体的な理由を口に出すことは無く、彼の祖母であるクララ・フーバーが無理強いするなと一言娘夫婦に命じた為、久しぶりの再会をただ喜ぶだけに堪えていたのだ。  そんな両親の心配に気付きつつも祖母の配慮に感謝し、帰省している間は家業を手伝っていたのだが、休暇も終わりが見えて来て、帰国前夜には新しい勤務先の病院も条件は悪くないし何とかやっていけるだろうと両親と祖母を安心させる笑みを浮かべ、翌日、家族に見送られて機上の人になったのだ。  彼が旅立つのはドイツ南部の大都市の外れにある空港で、目的地であるシドニーへの旅は中東の空港を経由する長時間のフライトになってしまうものだった。  その間、退屈しないようにと本や機内サービスの利用もしていたが、さすがに長時間のフライトは退屈で、斜め前の席に両親と思しき男女と並んで退屈そうに足をぶらぶらさせていた子供の遊び相手になったりしながら何とか時間を過ごし、母国での一時休暇から戻ってまた今日から生きていく国の空の玄関口である空港に飛行機が着陸した時、やっと長い両手両足を伸ばせると安堵したのだ。  飛び立った空港では粉雪が舞っていたが、到着した空港は真夏の乾燥した空気に包まれていて、着ていた薄手のジャケットを脱ぎ、仕事か観光かはたまた帰国しただけかは分からないが、この先の楽しみを思い浮かべていたり、目的地に漸く到着した安堵に綻んだ顔で通路に並ぶ人達の波に紛れて空から地上の人になる。  ビジネスクラスかファーストクラスかは不明だが、彼が乗ってきたエコノミーではないことは確実な通路から観光客やビジネスマンらが一足先に降りていく中、くすんだ金髪を首筋の上で一つに束ねた青いピアスを両耳に一つずつ填めた男に肩がぶつかりそうになる。 「Entschuldigung!」 「Kein problem!」
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