1 出会い編

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1 出会い編

 街路に植えられた黄金色のキンシバイが満開となる梅雨も終わりかけのこの時期は、母の命日が近くてより一層気分が沈む。 「登戸エミって、AIロボットみたいだよね?」  学校のトイレで偶然自分の悪口を小耳にはさんだ私は、目の前が真っ暗になった。  数人の同級生たちが、鏡の前で髪を直しながらうわさ話に興じている。  私は個室にいて、自分の名前が出てきて出るに出られなくなった。 「AIロボット?」 「能面みたいに表情が動かないでしょ。だけどロボットと言い切るほどじゃなくて、ちょっとだけ自律しているAI」  アハハーと、甲高い笑い声が辺り一面に響く。  本人がすぐそばで聞いているとは知らず、うわさ話で盛り上がる彼女たち。 「ああ、確かに。うまいこというね。先生たちの言うことをよく聞く品行方正な笑わないAIロボット」 「気持ち悪いよね」  ショックだが、言われても仕方ないのかとも思う。  彼女たちの言う通り、私は笑わない。いっしょにいてもつまらない人間。 「でも美人だから男子の人気は高いみたい。顔が良ければ性格はなんでもいいんだろうね」 「あの、田代君が彼氏だもんね」 「誰か彼を好きって言っていなかった?」 「浜津美乃」 「ああ、そうだ。田代君に彼女ができたって知って落ち込んでいたっけ」 「その相手がよりによってAIロボットだもん。見る目ないよね」  自分は何を言われてもいいが、優の悪口は許せない。 「そろそろ行こうか」  みんなが出ていくのを待って、私も個室を出た。  鉢合わせしないよう、慎重に廊下を歩いて教室へ戻って席についた。  先ほどトイレにいた人たちは、私の顔を盗み見て、みんなでニヤニヤしている。  私は気づかないふりをする。  誰も話しかけてこない。教室では、いつも一人ぼっち。  友達も少ない。  だけどなぜか彼氏ができて、それがまた女子を遠ざけたようだ。  灰色の青春を送っている私にとって、初彼氏の田代優は希望の光でもあった。  今日の放課後は優と待ち合わせている。  それを励みに残りの授業に取り組んだ。
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