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プロローグ
少年が、座り込んでいた。
木々の中に身をひそめながら俯いている。
その姿は既に亡き者であると錯覚してしまうほど、力なく垂れた腕は自分の体重を支えることなく、地面に横たわっている。
息はしている。
だが、浅い。
その目はどこを見るというわけでもなく、虚だ。
どこも見ていない。
視界に映るであろう湿った地面は、少年にとって無意味な情報と判断され、脳に届いていない。
服が土で汚れているがそれにすら気づいていない。
いや、気づくほど心に余裕がない。
少年は負った心の傷に耐えることができていない。
ゆえに動けなかった。
動けず、ただ自分の心が壊れるのを待っていた。
いっそこのまま死んでしまいたい、と。
死んでしまえばもう関係ない、と。
現実から逃げようと、ただ虚空を見ていた。
少年が動いた。
重い体をゆっくり持ち上げると、視点が定まらないまま歩き始めた。
徐々に、しかし確実に一歩ずつ重い体を引きずりながら林の中へ消えていく。
否。
消えていなかった。
少年が座っていた場所には霧、だろうか。
漆黒の粒子が塊となって残されている。
その粒子は形を作っては崩れ、作っては崩れを繰り返している。
刹那、その粒子から手が飛び出した。
人間の手だ。
初めは赤子のようにがむしゃらに空を掴む。
やがてなにかを掴むことを諦めた頃に粒子は人間を形どっていた。
人が、生まれた。
赤子ではない。
少年が生まれた。
少年は地面に倒れた身体をゆっくりと持ち上げる。
虚な目ではない。
明確に何かを見ていた。
その目は憎悪に燃え上がる。
捨てられた。
少年はそう言葉を漏らすと、ゆっくりと歩き始めた。
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