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「慈恩、忙しいところごめん」
俺は乱雑に散らかった机から応接セットのソファへ移動する。
そんな俺を見て、唱馬も向かい側のソファに座った。
「慈恩も忙しいだろうから、単刀直入に聞くね。
さくらはどこ?
慈恩のところに居るんだろ?」
可愛らしくて、大人しくて、いつも穏やかな唱馬が、完全に臨戦態勢に入っている。
そんな唱馬の変化に、俺は、内心、頼もしく思った。
唱馬はか弱き子羊なんかじゃない。
戦闘能力を備え持つ荒々しい狼に変身していた。
さくらによって引き出された唱馬の新たな一面に、俺は遠慮がちな気持ちを捨てる覚悟ができた。
唱馬を傷つけたくない…
そんなさくらの気持ちは、痛いほどに分かる。
か弱き子羊のイメージだった唱馬なら、誰だってそう思うはず。
でも、この鋭い目つきに、そんな子羊の顔なんてどこにも見当たらない。
「さくら?
ああ、いるよ」
俺はそれだけ言うと、目を細めて唱馬を見つめた。
唱馬の表情から何かを読み取るために。
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