しし座流星群の夜

11/11
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
ゆっくり、ゆっくり。徐々にスピードを上げていく。 窓の向こうに、ツバメが丘のまばらな町明かりが遠ざかっていく。 さようなら、奈央子。 ツバメが丘から続いていた線路からはいつの間にかはずれ、森の中を音もなく駆け抜ける。 黒くたゆたう海に、月が光の道を落とす。アナウンスが夕陽が浜と告げた。 停まった電車に、来るときに見た巾着を持った女性が乗ってきた。 「どうも」 女性は軽く会釈をすると、僕の後ろの席に腰を下ろすと再び電車が動き出した。 しし座流星群が降り注ぐ、夜の静けさのなかを音もなく電車は走り続ける。 灯台の立つ岬から、電車は空を飛んでいた。 光の筋が次々に闇に消えては現れる流星群が、窓の向こうを埋め尽くす。 さようなら、沙也。 「大事な話がしたいから、今日は早く帰って来てね」 きっとあれは別れ話なんかじゃなく、沙也を授かったという話だったんだ。 後悔しても、今更どうしようもない。だから―― 「ずっと、ずっと見守るから」 そっと呟いた言葉は、どこかの席かで泣いているらしい女の子の嗚咽と重なった。 また会いに行こう。 しし座流星群の夜に。 奇跡の夜に。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!