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ゆっくり、ゆっくり。徐々にスピードを上げていく。
窓の向こうに、ツバメが丘のまばらな町明かりが遠ざかっていく。
さようなら、奈央子。
ツバメが丘から続いていた線路からはいつの間にかはずれ、森の中を音もなく駆け抜ける。
黒くたゆたう海に、月が光の道を落とす。アナウンスが夕陽が浜と告げた。
停まった電車に、来るときに見た巾着を持った女性が乗ってきた。
「どうも」
女性は軽く会釈をすると、僕の後ろの席に腰を下ろすと再び電車が動き出した。
しし座流星群が降り注ぐ、夜の静けさのなかを音もなく電車は走り続ける。
灯台の立つ岬から、電車は空を飛んでいた。
光の筋が次々に闇に消えては現れる流星群が、窓の向こうを埋め尽くす。
さようなら、沙也。
「大事な話がしたいから、今日は早く帰って来てね」
きっとあれは別れ話なんかじゃなく、沙也を授かったという話だったんだ。
後悔しても、今更どうしようもない。だから――
「ずっと、ずっと見守るから」
そっと呟いた言葉は、どこかの席かで泣いているらしい女の子の嗚咽と重なった。
また会いに行こう。
しし座流星群の夜に。
奇跡の夜に。
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