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「あ〜、ごめん。ちょっといいかな……」
片付けを始めるスタッフの中で、座ったままモニターを見つめていた監督が、ハルとアキに声をかけた。
「はい……」
二人は顔を見合わせ、監督のもとに歩み寄る。
「このアキくんの黒い皮手袋なんだけどさ……ナシにした方がいいんじゃないかと思ってさ」
「はい?」
アキは監督の意図を探るように、目の奥を見つめる。
「ハルくんの追い掛けられる恐怖心を煽るイメージで、不気味な感じにしようと思ったんだけどね……
ライブのオープニングムービーだろ? ライブのコンセプトと合わないと思うんだよ。
この世界観の中にも、悲壮感じゃなくて、希望を感じさせないと。
だから、ここは素手にした方がいいんじゃないかと思ってね」
「なるほど……そうですよね。わかりました。じゃ撮り直しで」
「うん、悪いね……」
「いいえ、大切なオープニングですので……。お願いします!」
そう言った後、アキが目線を寄越したので、ハルも頷いて、監督に頭を下げる。
「よろしくお願いします」
二人の返事を確認した監督の掛け声に、スタッフは機材や道具を撤収している手を止め、また監督のもとに集まって来た。
「なに、ハルくんの肩とアキくんの手のアップだけだから、すぐ終わるよ」
ハルは少しホッとしながら、脱いだコートをまた羽織り、ストールを首に巻いて準備を始めた。
「走らないんですか?」
アキの一言にハルはギョッとして、内心勘弁してくれよ……とアキと監督に目を向ける。
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