82人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
私達夫婦の未来のカタチ
ある日、夫が言った。
そろそろ子供を考えようと。
私はそれに漠然と抱えていた不安を吐露する。
醜い気持ちが溢れるかもしれないと。
素直に喜べないかもしれないと。
「全部俺のせいにしたらいいよ。君がそうなるのは自然の営みが出来ない俺のせい。人を羨むのも嫉妬するのも俺のせい。辛くなったら俺に当たってくれよ。受け止めるから」
「凄い乱暴な言葉を吐くかもしれないよ」
「そうだね」
「貴方だって辛いのに、また貴方だけを責めた言い方をするかもしれないよ」
「当然だと思う」
「あまりにも醜い姿を晒す私を嫌いになるかもしれないよ」
「それはない。どんな君も俺のモノだから」
「妊娠したら、収入が減る」
「働き者の君を休ませることが出来て嬉しい」
「産まれたら構ってあげれないからね」
「いいよ。俺が子供と君を構うから」
「……本当に、いいの?」
望んでいた。
不安だけど、ずっとその言葉を待っていた。
夫の男として見られていたい、精だけ求められてるようで抵抗がある、抱けないけど抱いて子を成したい気持ちが捨てられない。
そう言っていたのに。
「待たせてごめんね。やっと自分の気持ちにケリがついたんだ。君には諦めさせておいて俺が諦めないのはおかしいよね。出来ないのに……しようとしても俺がダメなのに。ようやく吹っ切れたんだ。嘘じゃないよ。無理もしてないからね。どんなカタチであれ君との子供が欲しいと心底思っている」
穏やかに笑う夫に涙が出た。
おいでと、手を伸ばす腕に迷わず縋り付く。
「やって見なきゃ分からないし絶対に妊娠するとは言えないけど、私……実は凄く焦ってた」
「うん」
「年齢が年齢だし、早くトライしたかった」
「うん」
「決断してくれてありがとう」
「遅いと怒っていいよ」
「ううん。強く抱き締めて欲しい。それから唇にキスしてくれたら嬉しいな」
ダメ元でお願いした。
性的な触れ合いはずっとしていない。
キスは頬に触れる軽いものしか出来てない。
だから、断られても仕方ないと思っていた。
夫の申し出に高揚した気持ち、未来への事実だけで充分満たされていたから。
「優しいキスと激しいキス、どっちがいい?」
「えっ?! い、いいの?!」
「うん。言われなくてもしたいと思った。こんなに喜びを露わにする君を見れるなら、もっと早く決断すれば良かったよ。で、どっちをお望みかな? ちなみに俺は最初優しく後激しくを希望する」
私はただ頷いた。
頷くしか出来なかった。
込み上げる恋情が喉を締め付けて言葉にならない。
しっかりと夫の顔を見ていたいのに、滲んだ視界が夫を隠す。
目を閉じて。
言われたと同時に、懐かしい温もりが唇に落ちてきた。
( 完 )
最初のコメントを投稿しよう!