第12話 足りないのは

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新藤(しんどう)鈴々(りり)先生 著 「部長どうしてですか!俺のこと、好きだって言ったのに……!女性と付き合うなんてひどいじゃないですか!」 「俺達の仲を悟られないようにするためだ」 葵葉(あおば)は泣いていた。 気持ちはわかる。 けれど、社内で噂になれば、俺もお前もおしまいだ。 古い体制のわが社は男同士の恋愛に寛容ではない。 会社だけではない。 世間もか―――俺はどうなってもいい。 けれど、葵葉、お前が傷つくのだけは耐えられない。 「わかってます。部長が好きでもない女と付き合うのは俺のためだってこと。すみません。動揺してしまって」 「謝らなくていい。逆の立場なら、俺は嫉妬で狂っていただろう」 「部長っ……」 「部長じゃない。葵葉。俺のことを名前で呼んでくれ」 「が、凱斗(がいと)っ……」 葵葉の涙を指でぬぐった。 その透明な雫は俺の手を濡らし、地面にこぼれ落ちていく。 「もう泣くな。今日は二人でなにかおいしいものでも食べよう?」 「はい。俺っ、作ります!二人で食べようと思って鍋の材料を買ってきたんです」 「そうだな。二人で過ごそう」
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