第0話

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第0話

(あらが)いがたい悪魔的な魅力で不良たちの心を惑わし(とりこ)にする“機械の体”。 しかし、その少年にはそんな物は必要なかった。 信頼する仲間と愛する女さえいればいい。そう思っていた。 機械の体の誘惑に負けた仲間たちに裏切られ、(よこしま)な欲望を抱いた外道の奸計(かんけい)により、愛する女を連れ去られるまでは──。 女の行方を捜し、当てもなく街を彷徨(さまよ)った末に少年が見たもの。 それは、高みから身を投げ出そうとする女の姿だった。 彼女が受けた惨苦(さんく)を物語る傷ついた体。身にまとった衣服は乱れ、血に染まっていた。 失われようとする命をつかもうと必死に伸ばした右手。 悲しみに縁取られた笑顔は舞い散る綿毛のように掌をすり抜け、少年の手は虚空をつかんだ。 少年が最期に聞いた彼女の言葉。 「ありがとう……」 命を救えなかった少年には、あまりに酷なひと言だった。 少女の流した涙が願いを聞き入れない彗星のように糸をひき、宙空に舞った体が闇に墜ちていく。 女を救えなかったのは自分のせいだと少年は己を責めた。 自分には彼女を救う力がなかった。 不良を気取りながら、機械化へと踏み込めなかった己の甘さと、覚悟のなさを悔いた。 そして── 少年は切望した。 「機械の体が欲しい」と……。
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