FinalChapter elysion

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万象は晴明が心を読めることを隠してもしょうがないと吉昌童子に打ち明けることにした。 「いいですか? あなたのお父様は人の考えていることを読むことが出来ます」 今にして考えれば、父上(晴明)はオラが悩んでいる時には知っていたかのように励ますようなことを言ってくれた。そのことから、吉昌童子は何となくであるが前々から察しているのであった。 「そうか…… 父上は心が読めるんだろ? 今の話が本当ならオラが知ったことは知られちゃマズいんだろ? オラの心が読まれたら終わりじゃないか!」 全く、幼き時から心を読めるとは何と言う面倒な…… 私であれば心を読まれたとしても、すぐに思ったことを口に出せる故に問題はありませんが…… まだ童で術の才も眠っている吉昌童子にそれを求めるのは酷か。ならば、私の式神の力を借りるとしましょう。万象はこのような時に役に立つ式神を呼び出すことにした。 「でませい、木霊」 万象が指を鳴らすと、一匹の猿の妖怪が現れた。 「万象様、お久しぶりです」 「木霊や、この童に暫しの間だけ取り憑いては貰えないだろうか」 「万象様? オイラは『お喋り好きな妖怪』なだけで、取り憑いても思ったことを喋らせることしか出来ませんぜ?」 「それがいいんですよ。そうですね、三日後にまた呼びますから」 「うぇい」 木霊は姿を消した。吉昌童子は妖怪について尋ねた。 「あの? 今の猿のような妖怪は……?」 「木霊です。山に向かって『ヤッホー』と叫ぶと、同じ声で『ヤッホー』と返してくるではありませんか。それをすなる妖怪です。大丈夫です、人には無害です」 妖怪木霊。樹木に宿る精霊や妖怪のことをいう。山や谷で音が反射して聞こえてくる現象は妖怪木霊が成すものとされている。ただ、音が聞こえてこない時には話好きの気質からか、妖怪木霊同士で延々と話を続けるとされている。 人に取り憑いた時には、取り憑れた者に思ったことをすぐに口に出させる性質があると言う。主に子供が好きで、時折山から下りては子供に取り憑き、すぐに去っていく。 「さて、運命の日は三日後です」 「母上が播磨に帰ると言っていた日だ」 「梨花様も久方ぶりの阿倍野の里を堪能したようで何よりです」 「阿倍野の里で童の頃の父上と一緒に遊んだ毎日は楽しかった。一緒に男童相撲に出たのも一生の思い出だ」 「私は御尊父様とは友ではありますが、所詮は『赤の他人』です。中立の立場として御尊父様の決断を尊重する考えです。後は、血の繋がった『家族』の問題です。後は頑張ってください」 「万象様、悪い人だね。ここまで協力してくれるなら最後まで手貸して欲しかったな」 「ふふふ。私は悪い人ですよ? ってあれ?」 「オラ、頑張るよ。未来(いま)を作るために!」
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