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 達也(たつや)はカーテンから差し込む朝日に目を細めながら、ゆっくりと目を覚ました。頭が少し痛い。どうやら飲みすぎたらしい。  それにしても……見覚えのない天井、カーテン。ここは一体どこだ?  眼鏡をどこかに置いてしまったようで、遠くのものはあまりよく見えなかったが、ぼんやりとピンク色が基調となっていることはわかる。  その後に布団が直接体に触れる感覚と、やけにスッキリとした気分が、昨夜何があったかを物語っていた。  昨日は友人の結婚式に出てから、二次会に出て……うん、それからの記憶がない。  酔った勢いってやつか? いやいや、俺って誰とでもそういうことが出来るタイプじゃないんだけどなぁ。  頭を捻りながら、そろそろ現実に向かう準備をする。 「んっ……」  隣から聞こえる寝息の正体。この部屋の主と対面する時間だ。  達也は静かに寝返りを打つ。こちらを向いて、うつ伏せで寝ている女性。顔に髪がかかり、顔はしっかりと見えない。  そっと彼女の顔にかかる髪をはらい、よく見えるようにと顔を近づける。その途端、驚きのあまり跳び上がる。  ま、まさか、まさか……まさか……達也は大きく項垂れた。  その動きに反応して、女性も伸びをしながら目を覚ます。彼女もまた寝ぼけ眼のまま達也を見つけると、徐々に顔面蒼白になる。 「たっちゃん……?」 「お、おはよう」  口にしてから自身が裸であることに気付き、まるでカタツムリのように布団の中に潜ってしまった。  達也はその様子を見ながら、思わず吹き出した。 「……だよな。その様子だと、園部(そのべ)も記憶がないっぽいな」  布団の中で大きく頷くのがわかる。 「俺も状況が呑めていないんだよ。二次会に行ったところまでは記憶にあるんだけど。ちなみにここって、お前の部屋?」  また大きく頷く。その時ベッドのヘッド部分の棚に眼鏡が置いてあることに気付き、達也はようやく視界を取り戻した。  やっぱりピンクだ。園部って案外かわいい趣味なんだ。十年も同じ学校で過ごしたのに、知らないことがまだあるんだな。  でもお互い大学を卒業してからは、メールは時々するものの、会うのは年に一回の同級生の集まりくらいだった。 「ちなみになんだけど、体はどう? 俺はスッキリしてるから、確実にしたとみてる」  すると園部が布団から顔を出し、達也を見ると、恥ずかしそうに頷く。 「うん、してる」  そして園部はベッド脇のゴミ箱を覗いて、両手で顔を覆う。きっと昨夜の残骸を見つけたに違いない。 「……私、男の人を家に入れたことなんてないのに……」 「それは俺を男として見てないってことか?」 「あぁ、そうかもしれない! だから警戒しなかったのかも」  まぁそれもそうか。俺たちは中学から同級生で、同じ調理部に六年も在籍した、いわば戦友みたいなものだった。  お互いに友達以上の関係にはならず、でも気が合うのか似ているのか、行く場所には必ずどちらかがいて、同じ時を過ごしていた。  だから大学卒業の時が、初めての別れとなったのだ。園部は小学校の給食の栄養士に、俺は会社員。  あれからもう八年か……懐かしくなり、達也は小さく笑った。
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