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僕が給湯室を出ていこうとすると、茂村くんが袖をつかんで引き留めてきた。あやうくコーヒーをこぼしそうになる。
「池田さん、ちょっと二つほど相談があるんですけど、いいっすか」
あまりにも茂村くんの表情が真剣だったので、しかたなく了解する。ただし、わざとらしく壁掛時計に目線を送って「手短にしてよ」と釘を刺したうえで。
「事務の宮前さんて、彼氏とかいるんすかね?」
仕事の相談かと思っていたので、拍子抜けした。口に含んだコーヒーをあやうく噴き出しそうになる。
「宮前さんて、めっちゃ可愛くないっすか。仕事もできるし、性格もいいし。食事に行こうって何度も誘ってんすけど、笑ってごまかされるばっかで。きっと、彼氏いますよね、ITエンジニアとか開業医とか」
宮前さんとは、ひと月ほど前に花見へ行ったっきり。救急車で運ばれた件を気にしているのか妙によそよそしい態度をとるので、僕のほうも遠慮してしまって、進展は何もない。肩をすくめて「さあね」とだけ答えた。
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