プロローグ

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プロローグ

 僕はポケットに忍ばせていた一枚の写真を、裏返しのままテーブルへ置いた。L判と呼ばれる八・九センチかける十二・七センチの最もポピュラーな大きさ。  向かいの席に座る少女が見せてほしいと言うので、そっと表に返してやる。  そこに写っているのは、海を背景にベンチへ座る女性の姿。快晴の空に青い水平線、宙を舞う二羽の水鳥。そんな景色を眺める女性の横顔は、夏の日差しに目を伏せて、憂いを帯びた表情をしていた。海の見える公園で撮影された、ポートレート。  だが、その女性の傍らには、異質な人物が写りこんでいた。怒りの形相を浮かべて、彼女に向かって指をさしている。異質である理由、それは姿がぼんやりと透けているからだ。体全体に薄っすらと背後の景色が見えていて、足元や伸ばした腕の一部は靄のように消えかかっている。  この世ならざる者を捕らえた一枚。すなわち、心霊写真。  十九世紀、写真技術の発明とともに心霊写真は存在した。
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