プロローグ

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 一八六二年、米国のアマチュア写真家であったウイリアム・マムラーは、十二年前に死亡した従兄の写る自画像写真を公開する。世界最初の心霊写真は注目を浴び、南北戦争死者への慰霊として数多の被害者家族が彼の元を訪れたという。  また、一八七四年、フランスで写真館を営むエドアール・ブゲが心霊写真を発表し、ヨーロッパ中にセンセーションを巻き起こした。存在しないはずのものが写る写真は、畏怖の対象として大いにもてはやされることとなる。  その一方で、心霊写真は不正なものとして糾弾を受け続けた。マムラーは詐欺罪で告発され、ブゲは「二重露出」による不正を告白し禁固刑を課せられている。  心霊写真の歴史は、憂慮と畏敬と欺瞞と侮蔑の道をたどり続けてきた。  時を経て、写真技術のデジタル化が普及した今もなお、その魅力は多くの人々の心を捕らえて離さない。  本物の心霊写真を目の当たりにした少女は、体を震わせ、顔をしわくちゃにし、テーブルに突っ伏して嗚咽を漏らした。滂のごとく涙を流し、辺りかまわず慟哭した。  少女の感情が揺さぶられ、本性が垣間見えた瞬間、僕は愉悦に頬を緩める。心が落ち着き、安堵すら覚えた。  ――僕って、なんて悪趣味なのだろう。
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