第二話 でたらめに臭いって、それ

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「花見にも誘ったんすけどね。全然、食いついてもくれない。チャットアプリのIDも教えてくれないんすよ。ガード硬いっすよね。相当、嫉妬深い彼氏がいるんすよ、やっぱ」  花見にID……宮前さんの気持ちなら、僕が知りたいくらいだ。残念ながら、力になれない相談だった。給湯室を出ていこうとすると、再び袖を引っ張られた。 「まだ、もうひとつ相談があるんすよ。オレ、家買おうと思ってて」 「家?」  また急角度で相談の方向性が変わった。しかたなく、もう少しだけ付き合うことにする。 「昨日、東区の山口さん宅に、見積り持って行ったんすよ。その帰りに、めっちゃいい売り家、みつけちゃって。ひと目惚れってやつっすよ。でも、それが万代不動産の物件なんすよ。やっぱ、それってマズいっすよね?」  それは大いにマズい。弊社は東峰住宅と取引関係にある。万代不動産は、そのライバル企業。ライバル企業で家を買ったなんてことがバレたら、間違いなく茂村くんは東峰住宅絡みの仕事について出入り禁止。会社への受注にも影響が出かねない由々しき問題。
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