10、夏の幻

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「エリック君は女の子になっても可愛いねぇ」 「そ、そんなことありません……」 「違和感無いよ。刃君もね。寝てるけど」  言って、あぁそうかと死神を見上げた。 「それできみはご機嫌が良くないんだね。ただエリック君が女性になっただけなら、黙って連れて帰るけど、こんなに可愛いサイズ感だもの」  仏頂面の死神は、エリックを抱く力を強めた。図星らしい。 「……私の干渉が及ばん。何故だ」 「きみの?そうだねぇ、それも調べてみようか」  嬉々として手を伸ばしかけたが、ルーシェは後ろを振り返った。 「おや」 「……なんだコレ」  いつもより低音で呟いた刃が、のっそりと起き上がっていた。  筋肉質な体はルーシェと同じくらいの身長ながら厚みがあり、大きな手で乱れた髪をざっと掻きあげている。 「やぁ刃君。調子はどうだい?」 「調子?」  彼女、いや彼は、曖昧な返答をしてから、いつも通りニコニコしている師といつもより不機嫌な死神をぼんやり眺め、小さなエリックを二度見して噴き出した。 「ぎゃ!なんッだソレお前」 「……あなたのせいです」 「何でだよ知らねーよ。なんかえらく似合ってるからそのまま居りゃいいんじゃねーの?カワイイお人形さん?」 「どういう意味ですか」 「そいつに抱っこされてるのがお似合いってこったよ、ヨウカチャン?」 「うるさいあなたは早く小さくなったらいかがです?頭の中まで筋肉ばかりですか暑苦しい」 「あァ?いいだろ筋肉。テメェはなんで巨乳なんだよ腹立つ。可愛いおべべが弾けそうだぜみっとも無ェ」 「みっともない? ――っ?!」  エリックが身を乗り出した瞬間、予告通り、ギリギリで保っていたシャツのボタンが弾け飛んだ。 「ぎゃはは言わんこっちゃねえ!」  真っ赤になって硬直したエリックの胸元は、間髪入れず死神の掌が隠している。  そして死神は、刃を冷たくひと睨みして、エリック共々姿を消した。 「……きみ達ほんとうに仲良しだねえ」  やっとしゃべれたルーシェが笑う。 「で、センセ何ですかコレ。何ででっかくなってんのオレ」 「きみが原因らしいよ」 「えー?」  面倒そうにしゃがみこんだ刃は、床に散らばる石を拾って眺める。 「水晶柱……コレっしょ? うわー変な字ィ入ってる」 「もしかして、綺麗だからって買ってしまった群晶かな。さとる君、そういう事には聡いのに見えないから」 「こんなキレイな形なら術式何でも入れ放題じゃないスか。やっちまったなぁ……ちょっとセンセに見せたかっただけなのに。たぶんコレすっげー変な呪いっしょ」 「そうだね。よくできました。さて、体にどこか不調は無いかい?」  ナチュラルに頭を撫でられて、照れる刃はごにょごにょ口ごもる。 「いや、別に……むしろ動けそうでいいっつーか……」 「動じないねぇ。こんな王道シチュエーションで」  撫でられて動じているが、そちらは気付かないルーシェである。 「私より背が高いんじゃないかな。筋肉もしっかりついてて羨ましいなあ」 「……っス」  肩から腕から肉付きを確認され、固まる刃は緊張で言葉も出ない。  彼女が唯一尊敬する師は、観察対象に遠慮はしないが、本人はそうでもない。 「ただの性転換にしてはデフォルメが過ぎるね。何か別の因子あるのかな?」  言いながらあちこち触られ、恥ずかしさがピークに達した刃は声を張る。 「っセンセ!コレ何なんスか結局」 「そうだねぇ。さて、原因を含めて、ゆっくり解法を探そうか」  好奇心に目を光らせ、ルーシェはゆったり微笑んだ。 ■■■
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