三章

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幕がおりるのをうっとり見ていると、頬に柔らかい何かが触れた。 見るとそれはハンカチで、その先で波三谷くんが優しく微笑んでいる。 「そんな眩しい笑顔で笑わないでぇ……ォォ目がぁァ」 「かわいい」 「ゥァァ……」 「劇よかったねぇ!すごかったねぇ!!」 「まさか一真くんがいるとはね」 「うんうんうん」 「一真くんのことだから三年生に頼まれて出たのかもね。ほら彼人気者でしょ」 「そうだね!!」 そういう波三谷くんも人気者ですが。 ここまで来る途中、すごく視線を感じたもん。 劇を見た後ドア付近にいた私達は人の波に押し出され、強制退去。 それでもまだ涙が止まらぬ私を見かねて、波三谷くんが人気のないところまで連れて行ってくれた。 出し物も何も無い、物置き教室が並ぶ4階の階段。ここにはざわめきも人の波も無く、静かで少し寂しい。 「涙止まった?」 「どまっだ!!!」 「まだ出てるよ」 波三谷くんは私の間抜けヅラを見て、ふにゃりと笑う。そしてさらっと頬を指で拭ってくれた。 ……さっきから本当に、私は王子と話をしているのな? 「そんなに悲しかった?」 瞬間ふっと寂しさを含んだ笑顔になった。 「悲しいというか何というか言葉にできない感動だったよ〜〜……波三谷くんは違った?」 「え?」 「なんか言いたそうな顔してる」 波三谷くんは驚いたように目を丸くした。 「…………ふっ」 また優しさたっぷりの笑顔。 でも今のは寂しくなさそう。 「そうかな」 「何か言いたそうな顔してた?」 「翠恋ちゃんが可愛いからじゃないかな」 ヒョぇ!!? 「ほんと?!わたし可愛い?!」 「うん」 「ちなみにどういうところか聞いても!?」 今後の参考に!! 「……どこだろう?」 「んむ?!」 「あはははっ」 あんまり聞いたことない、人間味のある笑い方。 いつも王子様みたいに紳士に笑うから珍しい。 よく可愛いって言ってくれるから、何か参考になるかもって思ったけど……なんか波三谷くんが楽しそうだからいいやぁ。ぽわぁ。 それに波三谷くんはいろんな子に可愛いって言ってるからなぁ。
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