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今どこにいるの?
たったそれだけの短いメッセージを送ることさえ、緊張しちゃう。
怒られるかな。不安でスマホを持つ手が震えてくる。いや、これは寒さのせいもあるな。彼が今どこにいるか、わたしと一緒にランチを食べてくれる気があるか確かめないと、冷たい秋風と空腹でそろそろ本当に路上に倒れ込みそう。
既読がつかない。
ううん、もう少しだけ待とう。移動中で、受信音に気がついていない可能性だってある。彼を否定的に見てはだめ。わたしは彼女なんだもの。
おお、いる。
いや、彼じゃなくて。
無意識に上げた顔。視線の先にはペデストリアンデッキが広がっていて、改札を抜けたばかりの人が商業ビルに向かって歩いていたり、募金活動する学生が数名立っていたりする。週末だけど、通行人は多くない。地方都市の主要駅なんてそんなもの。
だから、バレバレだ。
この地域の名産品を模したモニュメント。味うんぬんより、糸を引いて食べづらいのでわたしは苦手。その後ろに人影がある。隠れているのだ。見えているけど。
細い足。ぴたっとしたパンツを履いているから、余計に強調されている。背は高くない。ホストみたいなヘアスタイル。茶色い髪の毛が像のてっぺんからはみ出ていて、さながら大豆のモンスターがヴィジュアル系に目覚めたかのようだ。
着いた時にはいなかった。どの方角からやってきたのかさっぱりだけど、音も気配もなく近づいてきていたのには感心してしまう。さすがストーカー。
このところずっと、わたしが行くところには、けっこうな確率で彼がいる。ただじっと見てくるだけで、害はない。それもあって、気持ちは悪いけど、なんだか慣れてしまった。
スマホが振動する。彼だ。わたしが待ち望んでいたほうの彼。
メッセージは一言。殺すぞ。ぎゃふん。
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