アプリから最下位の彼

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アプリから最下位の彼

大学生の帆乃香(ホノカ)にとって現在最も大切なのはスマートフォンの中の小さな世界。 いわゆる恋愛アプリの逆ハーレムものである。 タイトル“君の瞳にイケメンを”は3年程前にサービスを開始したアプリで、登録者が50万人はいるという。 大御所の主力アプリ程ではないが年頃の女性では知っている人も多く大学の友達でもやっている人が多い。 そして現在はその友達と一緒に会って恋愛アプリの真っただ中。 「あー! もう5話終わっちゃったよー。 相変わらず1話短過ぎ!」 「でも恋愛アプリはそういうものだよ。 あとは課金してください的な?」 「課金は絶対にしないけどねー! そんなに余裕ないし」 「それに毎日楽しみがあるから頑張っていられる!」 攻略対象は20人程存在しているのだが、二人が攻略している相手は同じラインハルト王子である。 金髪碧眼、典型的王子様といった容姿にぐいぐいと押してくるオレオレ系なところが女子の人気を掴んでいる。 「あ! ねぇ、人気ランキングの結果が出たみたいだよ!」 「本当!?」 最近イベントで行われていた総選挙。 アプリのキャラクター一覧から一番好みのキャラに投票するというものだ。 「もちろんラインハルト王子に投票したよね?」 「当たり前! 持っている投票券は全てラインハルト王子に次ぎ込んだよ!」 「私も!!」 投票権は課金すれば多くもらえるシステムだが、非課金、微課金の二人に投票権は少ない。 それでも開催されているイベントを頑張り必死で集めた投票権を全て推しのキャラクターに投票したのである。 二人は同時に結果を見て、同時に黄色い叫び声を上げた。 「キャーッ! ラインハルト王子が一番じゃん!!」 「当たり前だよー! あの優しいドSだよ? 世の中の女性が嫌うわけないって!!」 「現実ではこんな素敵な人いないもんねぇ!」 当然この結果に満足していた。 順位は一位から最下位まで出ていて、興味本位に眺めていく。 今回の投票では前回の投票時に要望が多かった、攻略対象以外のキャラクターにも投票できるようにしてほしい、との声を反映し攻略対象以外の投票先が何人かいた。 「他の順位はどうなっているんだろう?」 下の順位へとスクロールする。 「やっぱり下位のキャラクターって影が薄いよねー。 まぁモブだから仕方ないだろうけど」 「まぁ、ルート自体ボリューム少なめの引き立て役というか、脇役みたいなキャラだからね」 「実は開発当初はルート自体なかったっていう話だよ」 「そうなのぉ?」 「そもそもメインストーリーにもほとんど出てこないからね」 「いつかこの人たちも攻略する?」 「いつかね。 お気に入りの人をみんな攻略し終えたら!」 スクロールしていくと一人のキャラクターに目が留まった。 貴族であるルカだ。 王族の物語のためそもそも貴族はあまり出演しない。 「このルカとか顔はいいんだけどねー。 他と比べても断然顔はいい!」 「確かにね。 でもずっと無表情だし、感情の起伏もないしツンとしているのが残念」 ルカは攻略対象に入っていないキャラクターの一人だ。 そのために人気投票では順位が低いが、一部では熱狂的なファンがいるとかいないとか。 そんな彼には残念ながら立ち絵が汎用の物しか用意されていなかった。 運営もそこにお金はかけられないと判断したのだろう。 こんな他愛もないことで盛り上がっていると友人のスマートフォンが震えた。 「あー、ごめん! 彼氏がもうバイト終わったって!」 「了解。 じゃあ今日は解散だね」 「また会おうね!」 「うん。 彼氏がいるくせに恋愛アプリで満喫しちゃって」 「リアルとアプリは別!!」 友人と笑い合い帆乃香は一人帰ろうとした。 ―――ラインハルト王子のような人が現実世界にいたらなー。 ―――優しいドSとか理想の異性だけど、実際現実にいるとどんな感じになるんだろう? ―――相手にもよるだろうけど、ちょっと怖かったりするのかなぁ・・・。 歩いていると帰り道で人だかりを発見する。 ―――どうしたんだろう、こんな夕方に。 ―――・・・黄色い声? ―――誰か有名な人でもいるのかな? 気になって近付いてみてみると、その場に合わない異様な人物が立っていた。 普段に見かけることのない服装。 しかし先程見たばかりということで妙に印象に残っていた。 ―――あれ、どこかで見たことのあるような・・・。 ―――というか、ついさっき見たような・・・? ―――最下位で脇役のルカの、コスプレ・・・? 赤い豪華な服に高身長の彼は帆乃香に気付いた。 脇役なのに実際に見ると輝いていると感じた。 ―――・・・もしかして、今彼と目が合ってる? 「帆乃香!!」 「・・・え?」 彼は先程モブ扱いしたばかりのルカにそっくりの外見の持ち主だった。
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