わたしが持っているものはたったひとつだというのに。どうして贅沢だと一掃されてしまうのか。

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ふっふっふふふふふ。 あぁ、そうかよ。 わたしにケンカ売ってんだな?ああ? 買うぜ。 買ってやる! わたしはなぁ。売られたケンカは()ってこいと言われて育ったんだ。ただで済むと思うなよぉぉぉ。 って尻もちついて。考えてるわたし。 理那(りな)。 入学式の一日前に16歳になった。 中1の頃から、どんどん目が悪くなってて。 この春休みに新しい眼鏡を買ったんだけど。 黒縁の古臭いモデルにしたんだ。 かけると自分でもびっくりするほど、わたしじゃないみたい。 我が家の本棚にある古い少女漫画。あれは正しかったと反省。 メガネ外したら別人ってどういう設定だよと思ってたけど。 実際こんだけ目が悪いと。メガネかけるとめちゃ目が小さく見えて。 鏡の自分に。だれだこれ?って思うほど。 けど。 あまりにも地味すぎたらしく。入学式から、目をつけられた。 同じクラスのかわいい女の子、アヤネが。 「一人ぼっちでかわいそう、こっち来たら?」 とわたしに声をかけたらしい。優しい女の子を演じてたんだろう。 一人が可哀そう、という意識のないわたしは自分の事だと気づかずに。 アヤネから無視しやがってと思われた。 入学式から今日で4日。 まぁ。ちくちくと嫌味や陰口は聞こえたが。 こちらに実害がなければ無視で。と思ってた。 でも。 びしょびしょの制服スカート見下ろして。・・・これは実害だな。って冷静にキレてる。 学校の廊下。 掃除中のバケツの水。 突き飛ばされた方を振り仰ぐと。 そこには、にたっとしたアヤネと。にやにやしてる男どもが5人立っていた。 ・・・イマドキこんな阿呆がいるとはねぇ。 「いやぁん。ごめんねぇ。あたしったらふらっとしちゃってぇぇ。だぁいじょうぶぅ?」 と、周りの男に媚びながら。 わたしを突き飛ばしたアヤネが手を差し出す。 にこやかに「気にしないで。大丈夫よ。ありがとう」とその手を掴む。 掴んだのは立ち上がる気があるからじゃない。 ぐっと引っ張ると。 滑ってこちらへ倒れてくるから。 もちろん、ひょいとどいてやる。 アヤネはパンツ丸出しでひっくり返った。 ざまぁ。 って顔には出さないよ? アヤネの真似して、 「いやぁぁん、ごめんなさぁい。わたし重いのかなぁ」 って。謝っとく。 真似してるから誠意なんかこもってないけどさ。 取り巻きの男たちは。パンツ見る奴と、わたしをにらむ奴とにわかれた。 アヤネは「ぎゃぁ」って制服のスカート引っ張って。 「なにすんのよ!」とわたしを睨みつける。それが本性だな。まぁ。すでにわかってたけど。 ちっともわかってない男どもは。かわいいアヤネの大変な姿に。 「お前っ」って。 声を揃えてわたしを威嚇する。 おう、お前らからも。もちろんケンカは買ってるぜ。 全員を黒縁メガネずらして見上げる。 ぱちっと瞬きして。 にっこり笑うと。 ピタリと黙りやがった。何人かは顔が赤くなってる。 わたしはなぁ。お前らみたいな男が一番嫌いだ! とっても運の悪いことに、わたし。 美人に生まれた。 よくモデルになれとか声かけられてる。もうこの辛さにも慣れたけど。はぁぁ、本当に美人なんだ。黒とこげ茶の間くらいの色の黒髪に。大きな目。色素の薄い一応黒色の瞳。まつ毛は瞬きするたびにふぁさって音を立てる程。鼻は高いし。肌は白い。小さい口に、下唇だけはぽってりとしてるんだけど。スカウトだとか言ってきたエロおやじに言わせると。それが余計にいやらしくていい、ンだそうだ。 小さいころから。この顔で嫌な目にしか遭ってない。顔をほめる奴は信用しねぇし。振り向いて顔見た途端、態度変える奴は死ぬほど嫌いだ。 わたしの家族は父、母、兄なんだけど。 3人とも、頭がよくって。友達も多くって。前向きで。スポーツ万能で。 自慢の家族。 ・・・自分と比べていつも悲しくなってしまう。 わたしだけが、コミュ障で成績もいまひとつ。運動神経はないし、方向音痴だし。後ろ向きすぎる性格は、小学校、中学校と不登校寸前にまで追い詰められたほど。 って言ったら大人しい子を想像されるんだろうけど。 わたしって結構そうじゃない。実はブチ切れると見境がない。 ぐちぐちいじけた挙句にぎゃぁぎゃぁ文句言う。 ・・・つまり、性格も悪いんだ。 それも全てこの顔のせいだ。 しっかし。 こんなことするか、普通。 吹っ飛ばすだけのつもりだったのか。 バケツ狙って、びしょぬれにする気だったのかはわかんないけど。 濡れた制服が重い。くそっ。 むかつくわぁぁぁぁ。おおし!ケンカ買ったからには徹底的にやるぜ。 ほ、と小さく物憂げに。ため息ついて。 メガネはずして胸ポケットへ片付ける。 上半身は濡れてないけど。 髪が濡れたのを確認するふりして、ひとつに束ねた髪ゴムをはずす。 「本当にごめんなさいね」と。 これ以上ないくらい媚びて。優しく。可愛く。ううんと、とにかく私の中では最上のほほえみで! 髪をかき上げたわたしは。にこりと周りを威圧する。 一瞬の沈黙。 ごくりとつばを飲み込む音が、あちこちで響いて。 固まっていた男どもは一斉に動き出す。 「大丈夫?」 わたしを助け起こそうとする手はあちこちから伸びてくる。 「良かったら使って」ってハンカチも、あちこちから。 「いや、今のはアヤネが悪かっただろ」って取り巻きすらいなくなったわねぇ。とまた。 眼鏡はずすとちっとも見えないけど。アヤネらしい塊見下ろして。 ・・・まだ座ってんのかよ。誰かに助けおこしてもらえや。ってニヤリを。 男にはわかんないくらい入れて、にっこり笑いかける。 くって息吐く音がして。アヤネのキィッて心の声は確かに受けとったぜ。 ニヤリ。 ふふん。 わたしがすっきりしていると。 「はぁぁ」ってため息が右手のほうから。 ・・・し、しまった。 その声聞いて。やっと思い出す。 高校では目立たず。生きていくと誓ったことを。ああぁ。 「りぃな。大丈夫か」 近づく声はため息と同人物。「に、兄さん」 「それ、こっちで引き取るんで。離してくれる?」って寄ってくると。 どさくさに紛れてわたしにまだ触ってる手を振り払う。 兄さんに睨まれて。アヤネは固まってるみたい。 「君も悪かったんだから、クリーニング代はいらないよね?」ってセリフは確認か脅しか。「実際、こっちがもらいたいくらいだし?」 兄さんがこっち向くから。多分アヤネは頷いたんだろう。 そうして、兄さん。わたしを抱き上げた。姫抱っこ。 ・・・兄さんまでべちょべちょ。バカなの?
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